ムバッペは「W杯優勝の呪い」を乗り越える。「大事なのは次の試合だ」

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】ムバッペ伝説、第2章(前編)

 フットボール選手のキャリアをもっとも損ないかねない経験のひとつは、ワールドカップでの優勝だ。フットボールの頂点を極めた後、いったい誰が再び地味な努力を重ねる気になれるだろう。

 1998年のワールドカップを制したフランス代表選手のほとんどは、1998-99年シーズンのリーグ戦でまったく振るわなかった。当時の代表キャプテンで、現在はフランス代表監督を務めるディディエ・デシャンは、ワールドカップのトロフィーを掲げた後に「身体も精神面も無気力」になったと、後に語っている。

 次のワールドカップ日韓大会で、フランス代表は1次リーグで敗退した。2014年大会までの5大会のワールドカップ王者のうち、4チームが同じ運命をたどっている。

 若いうちにワールドカップを手にすると、影響はいっそう大きくなりかねない。2002年大会で、当時22歳だったパリ・サンジェルマン(PSG)のFWロナウジーニョは、ブラジル代表で世界王者になった。その後しばらく世界一の選手として君臨したが、4年後にはもう下り坂に入っていた。

 だから、彼と同じPSGの若いFWで、フランス代表の一員として19歳で世界王者になったキリアン・ムバッペの今後を心配するのは、まったくおかしなことではない。

チャンピオンズリーグ・リバプール戦でゴールを決めたキリアン・ムバッペ photo by Getty Imagesチャンピオンズリーグ・リバプール戦でゴールを決めたキリアン・ムバッペ photo by Getty Images ワールドカップ決勝でゴールを決めて世界一になるのは「最高の夢」だったと、ムバッペは言った。それを達成した今、フランスの小さな町で行なわれるアウェーの試合に出かけることはもちろん、チャンピオンズリーグの試合のためにリバプールへ行くことさえ面倒に思えても不思議はない。

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