データが示す「史上最強のメッシ」がアルゼンチン代表で輝けない理由 (4ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 不運なことに、ブラジル大会でのメッシは調子が優れなかった。おそらく疲れがたまっていたのだろう。この年の春、フットボール分析サイトの「Whoscored.com」では、メッシの評価が急落していた。バルセロナはトロフィーを獲得できずにシーズンを終え、メッシはワールドカップの試合のほとんどを、ボサッと突っ立ったまま過ごした。

 父親によれば、メッシは自分の足にそれぞれ100キロの重しをつけているような気分だったという。決勝のドイツ戦でメッシが試合終了間際に蹴ったFKが、クロスバーのはるか上を越えていったシーンは、彼のコンディションをよく示すものだった。いつものように、メッシは敗戦のスケープゴートにされた。

 だがメッシは、あくまで彼の基準からみて調子が悪かっただけだったとも言える。アルゼンチンがこの大会で奪った8ゴールのうち、メッシは4ゴールを決めている。しかし2種類の統計から、この大会でメッシが抱えていた問題が明らかになる。

 ひとつは、シュートやパスにつなげたドリブルが46回あったこと。この数字は、2位のアリエン・ロッベン(34回)に大差をつけていた。

 もうひとつは、成功したパスが242本しかないこと。ドイツのGKマヌエル・ノイアーでさえ、244本のパスを成功させている。

 つまり、バルセロナでのメッシはチームプレーヤーと言っていいが、ブラジル大会のアルゼンチン代表では、ひとりで攻めなくてはならなかったということだ。サベーラの努力にもかかわらず、アルゼンチン代表はメッシに合ったシステムをつくることができなかった。代表はメッシを、まだ「ソリスト」として使っていた。

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