よく聞く大ケガ「前十字靱帯断裂」。先進ドイツはどう対処しているか (2ページ目)

  • 鈴木智貴●取材・文 text by Suzuki Toshiki
  • photo by Getty Images

 ここで登場するのは、ハンブルク・エッペンドルフ大学医療センターのスポーツ医学部長と、ハンブルガーSVのチームドクターを兼務しているゲッツ・ヴェルシュ医師。彼はシュピーゲル誌の取材に対し、"負傷から治療開始までの時間"が、復帰時期の違いに決定的な影響を及ぼすことを明かしている。

 今シーズン開幕戦でハンブルガーの先制点を記録したニコライ・ミュラーは、そのゴールパフォーマンスの回転ジャンプで前十字靱帯を断裂するという災難に見舞われた。彼のケースでは、理学療法士が負傷直後からアイシングと患部の固定に徹し、試合終了後すぐにヴェルシュ医師が診察。負傷から3時間後には病院でMRI検査を受け、2日後に手術を受けている。

「アマチュアや草サッカーでは、こんなに早く手術を受けられることはない。今回のミュラーのように、土曜の試合で前十字靱帯を断裂したとしよう。すると、その選手が病院に行けるのは最も早くて月曜日だ。そこでMRIの予約を入れ、実際に検査を受けられるのは早くて水曜日。順調にいったとして、その結果が出るのは木曜になってしまう。

 そして多くの場合、専門の医師による適切な治療が行なわれることはないため、その間にむくみや腫れが生じてしまい、結果的にメスを入れるのが不可能になる。もし患部が腫れてしまったら、それが収まるまで最低でも4週間は待たなければならない」

 さらに、ヴェルシュ医師が指摘するプロとアマチュアの決定的な差は、「手術後の"価値ある時間"の過ごし方」だという。

 ブンデスリーガでプレーするプロ選手は治療やリハビリに専念できるのに対し、アマチュアの選手は普段の仕事をこなしつつ、終業後などの限られた空き時間しかリハビリに充てられない。前十字靱帯断裂の患者も「(リハビリを)早く始めれば、筋肉が衰えたり関節の可動域が制限されることも最小限に食い止められる」ため、ヴェルシュ医師のもとでは、遅くとも術後1カ月から筋肉および動作トレーニングを積極的に行なっていくという。

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