EURO開催にも懸念。サッカーがテロリストの標的になる理由 (4ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 しかし、スタジアム襲撃が失敗したと言うのはまちがいだ。爆発によって、パリから5キロ離れたスタジアムに警察が集まった。パリの中心部にいたテロリストは、おかげで邪魔されずに犯行に及ぶことができた。

 テロはテレビ向けに行なわれるが、スダッド・ドゥ・フランスへの襲撃は単なるテロ集団のPR動画ではなかった。ISは多文化主義を憎んでいるから、ヨーロッパのフットボールを敵と考えてもおかしくない。

 この組織は、イスラム教徒と異教徒が幸せに共存する「グレイゾーン」(と彼らは呼ぶ)を望んでいない。ヨーロッパのフットボールは、まさに「グレイゾーン」だ。イスラム教徒と異教徒がチームメイトであり、ドイツ代表のメスト・エジルのようなイスラム教徒が数えきれないほどの異教徒にとって英雄になる。

 そして世界中の普通のイスラム教徒が、マンチェスター・ユナイテッドやレアル・マドリードといったクラブのファンだ。フットボールが多文化だという点は、ISがスタジアムを襲撃する理由になる。

 11月13日の夜9時20分まで、フランスは来年の欧州選手権を開催することを楽しみにしていた。今は多くのフランス人が、特に政府関係者が大会に大きな懸念を抱きはじめた。

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