どん底ドルトムントにも、香川真司にひと筋の光を見た

  • 了戒美子●文 photo by Ryokai Yoshiko
  • photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 8万人を越えるキャパシティを誇るドルトムントのホームスタジアム、ジグナルイドゥナパルク。ドルトムントのホームゲームはほぼ毎試合満員になり、傾斜角のきついゴール裏が黄色く染まり、壁のように立ちはだかる様は圧巻だ。

 収容人数の多さとスタジアムの構造が理由なのだろう、圧倒的な迫力をもつ声援は味方を鼓舞し、対戦相手を追いつめる。ドイツでは間違いなくナンバーワンスタジアムだ。例えば内田篤人は、日本代表でのアウェーの戦の雰囲気について尋ねられると、「ドルトムントでのアウェーを経験したら、他では何も感じない」と答える。そんな雰囲気なのだ。

 だがその声援の熱量も、チームの成績の影響を受ける。後半戦最初のホームゲームとなった2月4日のアウクスブルク戦、スタジアムは静まり返った。取材陣も、ドルトムントといえば試合中に隣りの記者と会話を交わすことが難しいほどの声援に半ばうんざりしたものだったが、この日は問題なく話をすることができた。

 アウクスブルク戦に後半27分から出場した香川真司アウクスブルク戦に後半27分から出場した香川真司0-1となり、敗色が濃厚となった後半35分過ぎには、観客が席を立ち始めた。これもまた珍しいことだ。そして試合終盤は、前線にCBフンメルスを上げるなどしてパワープレイを展開。どうしても1点を取ろうとしながら、逆に後方でパスを回さざるを得ないようなシーンに、今度は容赦ないブーイングが浴びせられた。静観、沈黙から一転、エネルギーは怒りに転じた。好調を維持してきたここ数年のドルトムントにとって、初めてのことだ。

 圧倒的な「ホーム感」が売りのドルトムントのサポーターは、これまでチームにブーイングを浴びせることがなかった。年末のビルト紙では「優しすぎるサポーターが問題?」などという記事が組まれたほどだ。だがもちろん、サポーターのせいで勝てないわけではなかった。その記事に煽られたことがこの日のブーイングにつながったわけでもなかった。

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