ブラジルW杯で活躍した選手がもてはやされた夏の移籍市場 (2ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 アレックス・ファーガソンは、この問題に気づいていた。マンチェスター・ユナイテッドの監督を長年にわたって務めた彼は、昨年勇退した後にこう書いた。

「ある大会で活躍した選手をすぐに獲得することに、私はつねに慎重だった。1996年の欧州選手権のとき、私もそれをやってしまった。ジョルディ・クライフとカレル・ポボルスキーを獲得したのだ。どちらも欧州選手権ではすばらしいプレイを見せたが、彼らの国がその夏に得ただけのものを、私が得ることはなかった。(中略)ときに選手たちはワールドカップや欧州選手権に照準を合わせて準備するので、大会後には失速してしまうことがある」

 ある大会で輝けば──あるいは輝いた瞬間が数回あれば──選手は過大評価される。市場が最高値のときに株を買うようなものだ。1995年、プラハに住むウェスト・ハムのファンが、当時ウェスト・ハムの監督だったハリー・レッドナップに、「すばらしい」チェコ人選手カレル・ポボルスキーの獲得を勧めた。ウェスト・ハムは20万ポンド(当時のレートで約3000万円)でポボルスキーを買った。96年の欧州選手権の後、マンチェスター・ユナイテッドがポボルスキーを獲得するためウェスト・ハムに払った金額は、実に350万ポンド(当時のレートで約5億9000万円)だった。

 選手の力を判断するには、ひとつの大会だけでは材料が少なすぎるのだ。今年のワールドカップだけを見れば、ポルトガルのクリスティアーノ・ロナウドはコスタリカのFWホエル・キャンベルの半分以下の選手だったと言ってもおかしくない(キャンベルはレンタル移籍していたオリンピアコスからアーセナルに復帰した)。

 周りとの関係も意味を持つ。オランダのMFダレイ・ブリントはブラジル大会ですばらしいパサーに見えた。しかしパスを出す相手がアリエン・ロッベンだったら、僕たちの多くはすばらしいパサーになれるだろう(ブリントはアヤックスからマンチェスター・ユナイテッドに移籍した)。
(続く)

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