アルゼンチン苦戦の原因はメッシにあり (2ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Shigeki Sugiyama
  • photo by JMPA

 その高さを維持している時間はごくわずか。真ん中、しかもトップ下よりさらに低い位置、センターサークル付近でボールを捌(さば)いていた。

 スイス戦ではそれがどう改善されるか。最大の注目ポイントはそこだった。この日の布陣は4-4-2。メッシはイグアインとともに2トップの1人としてプレイするはずだった。ところが定位置にいたのはキックオフで始まる瞬間だけ。ものの5分も経たぬうちに中盤に下がってしまった。

 その位置で、攻撃の「始点」として仕切ろうとする。自分がすべての始まりのような存在になろうとする。周囲が流れを作り、その流れに従った方が明らかによい場合でも、自分中心の流れにリセットしようとする。自分の間合いでチームプレイを運ぼうとする。よく言えば将軍然とした振る舞いとなるが、酷く傲慢に見える。しかし、ボールを受けた時、足は止まり、腰は落ちているので、流れどころか勢いまで失うことになる。

 スイスはそこに狙いを定めてきた。メッシが中盤の低い位置で、普段FWでプレイするのと同じように難しいドリブルを始めると、アルゼンチンに危ないムードが漂った。実際ボールを奪われることも何度かあった。それだけならまだいい。普通の選手は、ボールを奪われれば奪い返そうとするが、メッシはしない。守備そのものに加わろうとしない。低い位置で構えているにもかかわらず、だ。これがどれほど迷惑なことか。

 守備をしない、あるいは守備力が著しく低い選手をどこに置くか。サッカーは、両者の力が接近している場合、基本的にマイボール50%、相手ボール50%で推移するスポーツだ。マイボール時に圧倒的な力を見せる選手でも、相手ボール時に穴になれば、プラスマイナスゼロ。置く場所を間違えれば、むしろマイナスになる。

 グアルディオラがメッシを「0トップ」で起用した理由はそこにある。ボールを奪われても、そこが一番リスクの少ない場所だからだ。相手の両センターバックは、両サイドバックに比べ、攻撃参加する回数が少ない。そこにチームで最も守備の弱い選手(センターフォワード)を対峙させることは、作戦的には常道と言える。

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