2014.06.15

ネイマールはブラジルの何かを変えることができるか

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by JMPA

小宮良之のブラジル蹴球紀行(2)

 6月12日、サンパウロ。午前8時15分。ホテルの部屋でキーボードを叩いていると、窓には朝焼けが映っていた。朝の陽光が臙脂(えんじ)の屋根と高層ビルの白い壁を照らす。天気予報は「晴れ」。テレビからは現地リポーターがスタジアムの熱気を早口で伝える。フットボール王国の祭りの幕開けにはふさわしい朝だった。

 しかし多くのブラジル人は、W杯開幕を心から愉しむと言うには、冷ややかな気持ちを抱えていた。

「教育や福祉に力を入れず、スタジアム建設に投資して終わり。政治腐敗も横行している。我慢の限界」

クロアチア戦で2ゴールをあげたネイマール(ブラジル) 日本で伝わっているように、そんな不満が根底にあることが伝わってきた。グアルーニョス空港から乗ったタクシー運転手のセルジオさんは「俺は月800~900レアル(約4万~4万5000円)の月給で家族を養っていかなきゃいけない。なのに、フッチボールに惚(ほう)けていられないよ」と憤慨していた。持てる者と持たざる者の格差が広がっている、という不安感が、フッチボールへの衝動を抑えているのかもしれない。

 メディアバスから見えた光景は、この国のカオスが生み出した一端だった。駐車スペースを確保することでお小遣いを稼ぐ少年たち、高架下でたき火をしているホームレス、黒いポリ袋が屋根になっている小屋が建ち並ぶ居住区で、子供を抱える母親。