誰も真似できないファーガソン流マネジメント (2ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 ほかにもファーガソンは、ジョン・F・ケネディの暗殺事件にのめり込み、謀略説について調べたり、関連の品々を集めたりしている。事件を調査したウォーレン委員会の報告書の写しも持っている(委員会の一員で後に米大統領になったジェラルド・フォードのサイン入りだ)。ファーガソンはゴードン・ブラウン前英首相の影響もあって、アメリカ史を本格的に勉強するようになった。彼の蔵書はほとんどが偉大な指導者の伝記で、独裁者についての本も多い。

 反抗する選手には厳しかったファーガソンだが、この自伝は驚くほど温かい。かつての敵であるリバプールFCや競走馬生産者のジョン・マグナーにも優しい言葉を書いている(ただしアーセナルの監督アーセン・ベンゲルだけは例外だ)。

 面白い本だが、ファーガソンの自伝としては物足りなさが残る。ファーガソンはジョークも口にしているが、ユーモアは彼の得意科目ではない。もうひとつ残念なのは、この本があまりに出版を急ぎすぎたことだ(クリスマスの前に出したかったのだろう)。

 偉大なマネジメントは、人間、時代、場所、運といった要素の二度とない組み合わせから生まれる。だから1冊の本で語れるものではないのかもしれない。他の指導者はファーガソンのように動こうと決断することもできない。元英国首相のトニー・ブレアもファーガソンから助言を受けていながら、ファーガソンがデイビッド・ベッカムを売り払ったように、ゴードン・ブラウンを追い出すほどの力はなかった。

 ファーガソン流マネジメントが真似のできるものだったら、誰もがとっくにやっているだろう。
From The Financial Times © The Financial Times Limited 2013. All Rights Reserved.

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