サンダーランドのイタリア人監督、ディカーニオの政治的信条とは?

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

ニューカッスル戦で就任後、初勝利をあげたサンダーランドのディカーニオ監督(photo by Getty Images)ニューカッスル戦で就任後、初勝利をあげたサンダーランドのディカーニオ監督(photo by Getty Images)【サイモン・クーパーのフットボールオンライン】ディカーニオとファシズム~後編

 サンダーランドの監督に就任したイタリア人、パオロ・ディカーニオ。"ディカーニオ効果"か、チームはここへきて2連勝するなど上向きだ。問われているのは過去のエピソードとその政治的信条だ。「彼はファシストじゃないか」。だがファシストという言葉が指し示すものは、国や人によって微妙に異なる。

 それでもディカーニオの政治的信条は、イタリア右派の主流よりもさらに右寄りだ。明らかに彼はファシストだ。ただしそれは、イギリスでのファシストの意味合いとも、現代のイタリア政治でいうファシストとも違う。ディカーニオの育ったローマでいうファシストだ。

 70年代のイタリアでは、極左と極右の間に暴力が絶えなかった。「政治的信条によって人が殺されていた時代だ。脇に抱えている新聞を見て、どんな思想の持ち主かわかれば、それだけで危なかった」と、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのジョン・フット教授は言う。

 ディカーニオはラツィオの筋金入りのサポーターで、他の筋金入りのラツィオサポーターと同じく極右だった。多くのサポーターは「ファシスト」という言葉を、「ラツィオサポーター」とほとんど同じ意味で使っていた。ローマの一部の若者たちにとってファシズムとは、マッチョであることを示すサインでしかなかった。ちょうどタトゥーを入れるようなものだ。ローマのフットボール文化の中で、ディカーニオのファシスト式敬礼は「俺はおまえたちと同じくラツィオを愛している」という意味だった。

 それでもディカーニオは、自分のしている敬礼に問題があることは理解していた。この点について聞かれた彼は「俺はファシストだ。レイシスト(人種差別主義者)じゃない」と語っている。彼の中で、あるいは彼が育ったローマで、「ファシスト」であることと、ユダヤ人を差別するような「レイシスト」であることは別なようだ。

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