2012.09.12

【イングランド】シティはサッカー界に次の「王朝」を築くかもしれない

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki
  • photo by GettyImages

就任して4シーズン目となる今季、プレミアリーグ連覇を目指すマンチーニ(右)【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】マンチェスター・シティの冒険(4)

 マンチェスター・シティの栄養専門家は、2ヵ月ごとに10分は選手をつかまえて話をしようとしている。あのバロテッリでさえ、血液検査の結果からなんらかの食品がもっと必要だと言われたら、ちゃんと耳を傾ける。今もフットボールクラブにはビールを飲む選手を心配しているところがあるが、シティのフィットネス・スタッフはエスプレッソを飲んでいる選手を見つけたら悲鳴をあげる。コーヒーには利尿効果があり、体内の水分を早く出してしまうためだ。

 栄養士のオフィスは照明のやわらかい小さな部屋で、選手に栄養関連のデータを見せるスクリーンがそなえられている。オフィスの外にある棚には、選手ひとりひとりに合わせて作られた栄養ドリンクが毎日並ぶ。

 これだけ完璧な環境を目にした後に選手のロッカールームに入ると、いささか拍子抜けしてしまう。それぞれのロッカーには億万長者たちの名前が書かれている。サミル・ナスリ、ガエル・クリシー、バンサン・コンパニ、ジョレオン・レスコット、ジェイムズ・ミルナー……。けれども、彼らの名前が金のプレートに彫られているわけではない。床にはカーペットが敷かれているが、ちょっとしたホテルのジムならもう少しおしゃれだ。戦術分析担当のフレイグによれば、シティは本当に価値をもたらすところにしか金を使わないようにしているという。

 でも「本当に価値をもたらすところ」とはどこなのか。その点については、フットボール界でもまだしばらく模索が続くだろう。「たいていのクラブは5分先のことを考えられない」と、戦術パフォーマンス部長のウィルソンは言う。「この業界では『将来を考えよう』と言うのに勇気がいる。目の前のゲームを考えていないように思われてしまうから。けれども、うちのクラブは5年先まで考えられる。そのために時間を使えるスタッフもいる」