【イングランド】マンチェスター・シティは金だけでなく頭を使った (2ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki
  • photo by GettyImages

 しかし、新しいオーナーたちは優れた選手を買っただけではなかった。彼らはシティにもっと「賢く」なることを求めた。

 ウィルソンは今、画期的なプロジェクトを率いている。それはフットボールをめぐる無数の問題に、前例のないほどの知力をそそぎ込むものだ。コーナーキックはどう蹴るべきか。フットボール選手はエスプレッソを飲んでいいのか。海外から移籍してきた選手をチームに早く溶け込ませるにはどうすべきか......。フットボールに関するあらゆる問題に、シティの専門家たちは答えを出そうとしている。昔から知的なものを排除しがちだったこの業界では、相当に斬新なアプローチだ。

「昨シーズンは僕らのやり方が実を結びはじめたと感じている」と、ウィルソンは僕に語った。「頭を使って何か新しいものをつかんだほうがいいということを、フットボール界に示せたと思うから」

 長い道のりだった。「この4年間は、シティをどの大会でも優勝の可能性があるチームにしようとした」と、ウィルソンは言う。「一流の選手にとって、このクラブを魅力的な選択肢にするためだ。大変な仕事だった。というより、まだ僕らはこの目標を達成できていないと思う。マドリードやバルセロナ、ロンドンのほうが、マンチェスターより住みやすいというのは、どうしようもない事実だし」

 優れた選手を獲得するために、シティは相場を上回る年俸を提示しなくてはならなかった。そのうえ、新しい環境に入ったばかりの若い選手から最高のパフォーマンスを引き出すため、無数の厄介な問題を解決しようとした。これまでフットボールクラブは、外国から来た選手の「リロケーション」をほとんど支援しなかった。例えて言うなら、契約を交わした後で「はい、これが航空券。これでうちに来て、初日からいいプレイを見せてくれ」と言っているようなものだった。

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る