【イングランド】マンチェスター・シティは金だけでなく頭を使った

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki
  • photo by GettyImages

チームを率いるロベルト・マンチーニ監督チームを率いるロベルト・マンチーニ監督【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】マンチェスター・シティの冒険(1)

 僕は先日、マンチェスター郊外のカリントンにあるマンチェスター・シティのトレーニングセンターを訪ねた。選手はまだ誰も来ていなかったから、駐車場には高級そうなSUVやスポーツカーが1台もなかった。

 チームカラーのスカイブルーに塗られた建物に入ると、テレビはみんなロンドン・オリンピックの模様を映している。ここには目を奪うような派手なものが何ひとつない。「ちょっとあんた、車に使う脱臭剤の缶をそこらで見なかったかね?」と、話好きな受付係の男性が聞いてくる。ここがプレミアリーグの新チャンピオンのオフィスであり、その選手たちが平日のほとんどを過ごす場所だなんて、いったい誰が信じるだろう。

 狭いオフィスの中に、僕は「戦術パフォーマンス部長」の肩書を持つサイモン・ウィルソンの姿を見つけた。30代前半で細身で口ひげを生やし、エドワード朝時代の詩人を思わせる顔立ちの彼には、フットボール選手としての実績はほとんどない。しかしウィルソンは、データと向き合う「戦術分析」の仕事をこの業界でいち早く始めた人物だ。最初はプレストンで働き、サウサンプトンに移り、そしてシティにやって来た。当時のシティはライバルのマンチェスター・ユナイテッドとの間に、ジョークのネタになるほどの差をつけられていた。

 ところが2008年、アブダビの投資家グループがシティを買収した。一瞬にしてシティは世界で指折りの金持ちクラブになり、その後4年間に選手の移籍金だけで約3億5000万ポンド(現在のレートで約440億円)を投じた。

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