「なんだ、この世界は?」非エリートだった田中順也が振り返る自らのターニングポイント J2優勝→即J1優勝で「ガラッと変わった」 (3ページ目)

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki

 田中にとりわけ大きな影響を与えたのが、「こうやったらサッカーは勝てるのか、っていうひとつの基準を強烈に示してくれた」ネルシーニョであったことは間違いない。

 日々のトレーニングを通じて、「サッカーってすごくシンプルなんだよ、ってことを教えてくれた」恩人の指導に、田中はみるみる引き込まれていった。

「ネルシーニョのサッカーは、相手のラインの裏でボールを受けてターンして、また前にいる人が相手のラインの裏をとって、そこにパスを通して......って崩していくんですけど、それを究極まで突き詰めると、縦パス、縦パス、縦パスでゴールまでいけるんです」

 実際、2011年にJ1を制した当時の柏のサッカーには、すさまじいスピード感があった。田中の表現を借りれば、「究極に効率がいいサッカー」である。

 ただし、それを実現するためにネルシーニョが定めた基準は極めて厳しく、「大前提として、ラインの裏でボールを受けたら、できる限りスムーズにターンしなきゃいけなくて、絶対にボールロストはしちゃいけなかった」。

 こんなに狭いところでパスを受けられるのか。受けたとして、すぐにターンできるのか――。大学を卒業したばかりの田中にとって、百戦錬磨の指揮官から要求されるプレーは「怖い、しかなかった」。

「でも、僕がミスをしても、ネルシーニョは『おまえならターンできるのに、なんでやらないの?』って、怒られてるんだか、ほめられてるんだか、みたいな感じなので、結構マジックにかかって伸びるんですよね(笑)」

 田中は厳しい要求の下でチャレンジを続けるうち、気がつけば自らの成長を実感できるまでになっていた。

「すごく難しい状況でもターンしてアシストできたりするようになるので、自分でも『オレ、こんなことできるんだ!』みたいな(笑)」

 と同時に、ピッチ内にもまた、田中の成長を促してくれる頼もしい存在がいたことも大きかった。

 2011年、シーズンMVPに選出されたレアンドロ・ドミンゲスである。

「レアンドロは本当に狭いところでターンして、ドリブルで限界まで運んでから僕らにアシストしてくれる。カウンターの時はレアンドロがとてつもなく速いんで、それをみんなで遅れないように追尾するのに必死でした(苦笑)」

 当時を思い出すのか、そう語る田中の表情が自然とほころぶ。

「もう、なんかね、ワクワクするんですよ。ボールを奪った瞬間に、みんなのスイッチが入るので。本当にすごいスピード感でサッカーをしていたなと思います」

3 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る