「サッカーどころではなくて喧嘩のよう」「私のレフェリングがダメだった」元レフェリー・村上伸次が審判目線で語る思い出に残る3試合 (2ページ目)

  • 篠 幸彦●取材・文 text by Shino Yukihiko

【神経を使う試合で記憶に残っているシーン】

2013年12月8日/2023 J1昇格プレーオフ決勝 
京都サンガF.C. 0-2 徳島ヴォルティス

 2013年のJ1昇格プレーオフ決勝、京都サンガF.C.対徳島ヴォルティスは、徳島が初めてJ1昇格を決めた試合。改修される前の最後の国立での試合でもあり、そういった意味でも特別なゲームでした。

 この試合は、言葉で表すのが難しいくらいピリピリとしたムードでした。J1昇格プレーオフはどの試合もそんな感じで、審判員も正直いつも大きなプレッシャーを感じますよね(笑)。一つのジャッジで試合が変わってしまうので、本当に神経を使うんですよ。

 たとえそれが正しいジャッジだったとしても雰囲気が変わってしまうので、正当なジャッジでさえ気を遣いました。副審は国際審判としても活躍した相樂亨さんと山内宏志さんだったので、"助さんと格さん"はばっちりでした。

 試合の前には、両チームがどんな戦術を取るのか予想します。この試合では京都がボールを握って、徳島が堅守速攻を狙うというわかりやすい構図だったと思います。だから徳島のカウンターに備えたポジションを取りながら、京都のポゼッションを見るようになるだろうと思っていました。

 それから守勢に回ることが多くなりそうな徳島のほうが、チャージは激しくなるだろうと予想していて、実際に徳島のファールが16回、京都が9回で予想通りの展開になりましたね。

 そうしたなかでキーとなる選手は誰なのか、選手たちとどんなコニュニケーションをとって試合を進めていこうかなど、いろんなことを考えていました。

 試合会場に着いたら、副審の2人と「早く帰ろうな」と言っていました。それはつまり良いレフェリングをして、両チームともに納得できる試合にしようということですね。

 そんななか、前半39分に徳島が先制をして、直後の43分にも徳島の津田知宏選手が追加点を奪ったんです。

 それが山内さんサイドだったんですけど、オンサイドのギリギリだったんです。普通であったら旗が上がってしまってもおかしくない。どちらかと言えば「上がっちゃうんだろうな」という状況でした。

 そこで山内さんがオンサイドの正しいジャッジをして、津田選手が抜け出して2点目を決めました。あれは私よりも山内さんのほうが、すごくしびれた状況だったと思いますね。当時は今のようにVARはないので、自分の目だけを信じてすばらしい判断ができたということで、非常に記憶に残っているシーンでした。

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