遠藤保仁が追求し続けた「サッカーを楽しむ」――その言葉に込められた真実 (2ページ目)

  • 高村美砂●文 text by Takamura Misa

「環境を変えれば、新しいチームや仲間を知るとか、知らない土地で生活するストレスも多少は伴うけど、この歳になれば、揺り動かされることもなく、『そういうこともあるんやな』って達観して受け止められるというか。ブラジルの2部とかになるとまた話は変わってきますけど、日本でプレーするのなら、仮に自分の思う環境がなかったとしても、自分でいろいろと工夫できる術はたくさんある。

 それに、僕自身にとっては何より、サッカーが楽しいと思えているかが一番重要で、そこさえクリアできていたら、他はあまり気にならない。実際、ジュビロに来てからのこの約3カ月間は、そう思えた時点で『十分やな』って思っているし、試合に出続けることで自然とフィジカルが高まっていくのを感じられたのもよかったな、と。

『まだまだ、自分は戦える』って確信したから(笑)。もちろん、そこにチームの結果が伴えば理想でしたけど」

 そう話した遠藤は、改めて彼にとっての"サッカーを楽しむ"についても言及した。

「もちろん、プロの世界は結果がすべてだと思っているし、全部の試合で勝てれば理想。でも、サッカーってうまくいかないのが当たり前のスポーツだし、成功しないプレーがたくさんあるから楽しいというか。

 たくさんミスをして、失敗するからまた成長できるし、次の手を考えられる。個人のミスをプラスに変えられるのも、チームで戦う面白さですしね。

 だからこそ、やっぱり僕はミスを恐れずプレーすることを楽しみたい。というか、"楽しむ"というと漠然としているし、人それぞれに楽しみ方は違うだろうけど、少なくとも僕はまず自分が楽しむことを追求したい。試合のなかで、何センチ、何ミリの精度とか、細かな強弱、弾道にこだわってパスを出すことを、ね。

 それが、きっと観ている人にとっての楽しさ、面白さにもつながるはずだから」

 それらの言葉を思い出す限り――これはあくまで想像にすぎないが、昨シーズンの磐田で、大きく出場機会が減った状況も、少なからず引退に思考が傾いていく理由のひとつになったのかもしれない。

 余談だが、その節目のインタビューで、ガンバで獲得した9つのタイトルに加え、JリーグMVPやアジア最優秀選手賞など、数々の個人賞を獲得し尽くしてきた彼に、「他にほしいタイトルや賞はありますか?」という質問を投げ掛けた。その返答が、彼のサッカー観を如実に示すものだったので追記しておく。

「現時点で設定されている賞で、僕が唯一もらえていないのはフェアプレー賞だけど、"アシスト王"のほうが魅力だな......そんなん、ないけど(笑)。汚いプレーをするつもりは決してないけど、クリーンにサッカーをしていたら勝てるとも思っていないというか。サッカーには、時に激しさも必要だし、戦わなければ手に入れられないものもあると思うから。

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