三笘薫にも伊東純也にもない魅力とは?鹿島アントラーズの快足ウインガー藤井智也にブレイクの予感 (3ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • photo by Naoki Morita/AFLO SPORT

【魅力はスピードだけではない】

 藤井にとってもいい移籍だった。昨季の後半、広島で出番を失っていたからだ。そういう選手の移籍先は広島より格下のチームとなるのが普通だ。プロ選手としての格を下げる移籍になるものだが、鹿島への移籍はクラブの規模的に見ても、成績的に見ても特進に近い昇進だ。そこで開幕から3試合続けてスタメンを飾り、この横浜FC戦ではマン・オブ・ザ・マッチ級の活躍をした。広島はいまごろ地団駄を踏んでいるのではないか。

 左ウイングのほうが、活躍が見込めそうなムードを感じる藤井だが、この横浜FC戦で奪ったゴールは、右ウイングとしてのプレーしていた時に生まれたものだ。右ウイングとしても一瞬ながら、光るプレーを見せていた。左右可能なウインガーであることを証明したとも言える。

 開始9分の先制点のシーンは、どこが光るポイントだったのか。樋口のパスを、身体を開きながら左足(うしろ足)で引き摺るように運んだ点にある。DFふたりの逆を取りながら、すり抜けることができた理由であり、次の瞬間、利き足である右足で、狙いを定めながらもスムーズに振り抜けた理由だ。

 たとえば、同じ右利きの左ウインガーである三笘薫は、左サイドで、右足をうしろ足にして、そのインサイドでボールを引き摺るように運びながら前進する。そこでスピードの強弱を付け、相手との縦ズレを狙いながら縦抜けを図る。

 これに対し、右ウイングとしての藤井は、右利きであるにもかかわらず左足でボールを運ぶことができる。右利きなのに、右利きっぽくないドリブルを右サイドで披露する。三笘にはない魅力だ。伊東純也にも存在しない魅力に見える。

 先制点のシーンでも、その左足の使い方が活かされていた。藤井と言えば、まずその快足ぶりに目がいくが、進行方向が分かりにくいドリブラーでもあるのだ。ドリブル自慢のウインガーが今季、またひとりブレイクしそうな予感がする。

プロフィール

  • 杉山茂樹

    杉山茂樹 (すぎやましげき)

    スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。

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