フットサル日本代表のエースが振り返る、初戦敗戦からの逆転アジア制覇。「あらためて壮絶な大会だった」 (4ページ目)

  • 河合拓●取材・文・写真
  • text&photo by Kawai Taku

インドネシアのフェアプレーに学ぶ

 また、今回の大会では、大きな話題となった場面があった。日本とインドネシアの準々決勝で、日本が2-1とリードしていた試合終盤のできごとだ。

 両チームがカウンターの応酬になる。日本がカウンターを仕掛けたが、ゴールを決められなかった。今度はインドネシアがカウンターを仕掛ける場面になったが、この際にインドネシアのシャウキ・サウードは石田がピッチに倒れていることを確認して、プレーを止めてボールをピッチ外に蹴り出した。

 日本のゴール前にはGK黒本ギレルメだけ、インドネシアはサウードに加え、フィールドプレーヤーがもう一人いる状況だっただけに、攻め続ければ確実に同点ゴールを奪える場面だった。この時、ピッチ上にいた清水は何が見えていて、どのように感じたのか。

「あの時間帯、当事者としてピッチに立っていましたが、自分がボールを持ってカウンターに出た時、僕自身は(石田)健太郎は一切、見えていないんです。ボールを奪って前を向いた時に倒された事象が起きていた。その時に『ボールを切れ』という声もなかった。

 だから、僕らの攻撃で点が入らなくて、インドネシアのカウンターになった時、健太郎が倒れているのが見えた。『なんでだ?』と疑問に思いながら戻っている時に、彼がボールを出してくれたんです。何かがあったから、彼らも『これは攻めてはいけない』となってボールを外に出してくれた。まずは、彼のところに行き、『ありがとう』と伝えた。僕らは、何が起きたかも知らなかったので、試合後に映像を見て、こういうことがあったんだなと把握しました」

 日本がカウンターに移った際、ボールを失ったインドネシアの選手が石田の足を引っ張って倒していたのだ。この行為によって、石田は古傷だった右ヒザをかなり痛めてしまった。だがその後「アドレナリンが出ていて痛みを感じなかった」石田は、プレーを続行。これが火に油を注ぐ形となり、インドネシア国内では「日本は攻撃を仕掛けたのに、なぜ私たちにだけフェアプレーを要求したのか」という日本に対する批判と、攻撃を止めたサウードに対する誹謗中傷の声がSNSには溢れた。

 試合翌日には両チームがそろって集合写真を撮影し、両協会からも声明を発表して、サウードが見せたフェアプレー精神を称えるとともに、両チーム間にわだかまりがないことを示した。

 清水も「いち選手として、ああいう状況でプレーを切るのは、僕が想像している以上に心苦しい判断になったと思う。しかも、1点差で負けているなかで、同じことができるかと言われたら、『はい』と即答できる自信もない。そのなかで、ああいう行動が取れるのは学ぶべき姿勢だし、スポーツをやりながらもリスペクト、相手を思う気持ちは常に持たないといけない。彼の行動から、ピッチ内外でより模範的な行動を心掛けたいなと思いました」と、サウードの判断を称賛した。

「今回の優勝を起爆剤にフットサルを盛り上げたい」

 8年ぶりにアジアを制した日本だったが、その活躍が日本国内で大きな話題になったとは言い難い。

 4シーズンを過ごしたスペインから戻り、現在は再び日本でプレーしている清水は、最後に競技全体の発展を目指す志を口にした。

「今回、選手たちは優勝という結果を残すことができました。あとはFリーグを含めて、どうやってマネジメント、マーケティングしていくかが重要になってくると思います。僕たち競技者も自分たちの魅力をどれだけ発信できるか。見てもらって『よかったね』で終わるのではなく、そこからいかにフットサルという競技に絡ませて、盛り上げられるかが大事ですね。今回の優勝を起爆剤に、盛り上げていきたいです」

清水和也 
しみず・かずや/1997年2月6日生まれ。東京都出身。小学生の時にフットサルを始め、高校時代はフウガドールすみだの育成組織でプレー。17歳の時にトップチームでFリーグデビューを果たした。左右両足から放たれる強烈なシュート力を武器にするピヴォとして頭角を表す。2018年からは4シーズンスペインで活躍し、今季2022年シーズンからフウガドールすみだに復帰してプレーしている。日本代表には2015年にデビュー。2021年のフットサルワールドカップに出場している。
Twitter:@0206_kazuya
Instagram:fuga11kazuya

フウガドールすみだ
http://www.fuga-futsal.com/
Fリーグ
https://www.fleague.jp/

◆【動画】フットサルアジアカップ決勝 日本対イラン ハイライト

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