ヴァンフォーレ甲府を見守って28年。県民みんなで支え続けたからこそ、天から「まさか!」が降りてきた (3ページ目)

  • 中山淳●取材・文 text by Nakayama Atsushi
  • photo by AFLO

 勝った喜びよりも、まずは周りへの感謝。それを忘れたら、きっとこの先、もう二度とこういう幸せを味わえなくなる。このクラブは、その精神をみんなが持っているから、たまにこういう奇跡が起こるのだと思う。

 サッカーだから、普通であれば、選手一人ひとりのプレーとか、監督の采配とか、相手チームのミスとか、いろいろな要素で試合の結果は決まるものだ。もう25年以上もそういう作業を繰り返して、いろいろな試合を伝えてきたつもりだ。

 でも、今回の甲府の快進撃は、そういったサッカー的な要素だけで論理的に説明できないことが多すぎる。リーグ戦では目下7連敗中で、かれこれ11試合も勝っていないのだから、当然だ。それくらい、摩訶不思議な事象が連続して、頂点に辿り着いた。

 やっぱり、今の自分がいるのは、周りの人がいてくれるから。甲府があるのは、周りの支えがあるからこそ。その精神さえ忘れなければ、いいことは突然やってくる。「まさか!」が天から降りてきて、日本一になれることだってある。

 1999年初春。J2が開幕する直前に、当時のヴァンフォーレ甲府の深澤孟雄代表取締役に話をうかがったことがある。J2参加のための資金集めに併走して、何とか1億円ちょっとを掻き集めて、資本金を約3.3億円にまで積み上げることができたと聞いた。

 その時、計265もの株主を増やしたなかで、そのうちの193は個人株主だったと聞いて、驚いたことをよく覚えている。クラブの前身の甲府クラブの時代にも、個人オーナーの川手(良萬)さんが亡くなったあと、みんなで募金を集めてクラブを存続させたことがあったが、甲府というクラブには、いつもそうやって県民に支えられながら続いてきた歴史がある。

 その精神が脈々と受け継がれ、みんなが周りへの感謝を忘れない。だから、サポーターが今回掲示した感謝のメッセージも、うわべだけの言葉じゃない。心の底からそう思っているからこそ、優勝したことの誇りよりも、感謝の気持ちが先に出てくるのだと思う。

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