元レフェリー・家本政明が明かすJリーグですごかった担当試合。「胃がキリキリする緊張感」を感じた一戦とは? (2ページ目)

  • 篠 幸彦●取材・文 text by Shino Yukihiko
  • photo by Getty Images

 しかし、蓋を開けてみれば、立ち上がりから磐田が東京Vになにもさせなかった。これはすごいなと思ったのを覚えています。前編のナビスコカップ決勝・鹿島対G大阪でもお伝えしたように、一発勝負での入り方は、主導権を握る上で非常に大事なポイントです。

 お互い慎重に入るのか、どちらかが先に行くのかなど、入り方にはいくつかパターンがあるものですが、この試合では東京Vが出ていきました。しかし、プレッシャーからかそれまでの試合とは違い、ちょっとバタバタしていて、その流れで磐田にPKを献上してしまいます。

 先制点が非常に重要な試合で、それがPKによって決まる。この時、私は2016年のチャンピオンシップ第1戦・鹿島対浦和が脳裏によぎりました。あの試合も私が担当して、浦和の興梠慎三選手が、西大伍選手に倒されてPKを取り、それが決勝点となりました。

 流れのなかでの得点では、その過程は選手が中心です。しかしPKの場合、それはレフェリーが判定するものなので、どうしてもレフェリーが試合に登場してしまいます。決定戦という試合で、レフェリーが登場するのは本当に嫌なものです。

 前半41分にPKによって磐田が先制して、後半からどうなるかと思っていたんですが、その後も磐田が東京Vのよさを冷静かつ緻密にすべて潰し続けました。おそらく相当研究したんだろうなというのが伺えました。

 そして80分に磐田が2点目を決めます。2-0のスコアは危ないとよく言われますが、2点目を決められて東京Vは下を向いてしまう選手が多く、プレーオフ1、2回戦からの勢いがポキっと折れてしまったような印象を受けました。

 磐田の選手たちはとにかくひたむきにプレーし、プレッシャーに縮こまることもなく、J1という格上のチームが与えられたミッションを確実にこなしていった印象。逆に東京Vは萎縮してしまったと思います。

 この試合の90分間は、リーグ戦やほかのカップ戦ともまったく違う、あまり心地よくない緊張感がずっと続いていました。試合終了の笛を吹いた時は、歓喜と安堵が入り混じったものがスタジアムを包んでいました。

 レフェリールームに帰って、本当にため息が出ました。胃がキリキリするような独特の緊張感があった試合として非常に記憶に残っているゲームです。

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