「一番の武器はメンタル」青森山田の10番、松木玖生。Jリーグでも抜群の存在感を発揮できるか (2ページ目)

  • 松尾祐希●文 text by Matsuo Yuki
  • 高橋 学●撮影 photo by Takahashi Manabu

【高1から抜群の存在感】

 ただ、当時は中学生とは思えない"ハートの強さ"を持っている選手だけで、サッカー選手としてはまだまだ未熟だった。メンタリティーと技術が噛み合っておらず、圧倒的な存在感を放っていたわけではなかった。

 それでも、中学3年生で高等部のBチームが参戦するプリンスリーグ東北を経験し、シーズン終盤にはAチームの一員として、さらに上のカテゴリーのプレミアリーグでプレーした。そこで自分に不足しているモノを見極め、高校1年生の夏までは焦らずに身体を作ってきた。

 迎えた1年次の高校サッカー選手権。過去3年、スタンドから先輩たちの勇姿を見つめていた男は、覚醒の時を迎える。

「1年前に想像していたのは圧倒して勝つこと。自分が3点ぐらいとって、チームを勝たせたい。自分を主役で考えているんですよね」

 そう言いきった松木は5試合で4得点。プレー以外でも強烈な個性を示し、準決勝の帝京長岡戦では相手の決定機をゴールライン上で阻止すると、上級生に容赦なく檄を飛ばした。惜しくも準優勝に終わったが、当時のエース・武田英寿(現・大宮アルディージャ)にその存在感は負けずとも劣らない。圧倒的なパフォーマンスで自らの名を全国に知らしめた。

 2年生になってからも、仲間と切磋琢磨しながら高みを目指す姿勢は変わらなかった。むしろその熱量は高まる一方で、下級生とは思えない力を発揮する。「あんなにリーダーシップを持った選手はいないよね」と黒田監督が目を細めたように、何かあれば即座に仲間を集めて声を掛けた。上級生からすれば、そんな後輩に嫌気がさしてもおかしくないが、松木が咎められずに受け入れられたのも、日々の取り組みを認められていたからこそだ。

 その一方で、2年次は人知れず、悩みながらのプレーが続いた年でもある。1年次は怖いもの知らずの状態で自分のプレーに集中できたが、学年が一つ上がったことでチームを引っ張る自覚がそれまで以上に増した。

 チームを勝たせたいと思うがゆえに黒子に徹した部分もあり、特に本来のよさであるゴール前に入っていくダイナミックなプレーがあまり見られなくなっていく。ふだんはそんな素振りを微塵も見せなかったが、選手権では現実と理想の狭間で揺れ動く姿が見られた。

「(選手権では)ビルドアップのところを意識して、周りを目立たせたいという気持ちがあったのは事実。ストレスはあったし、抑えていた部分もあった」

 2度目の選手権は不完全燃焼。結局、チームも決勝で敗れ、またしても松木はタイトルを掴めなかった。

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