大久保嘉人を変えた風間八宏監督との出会いと言葉。「走れ」じゃなくて「止まれ」「歩け」
大久保嘉人 引退インタビュー 前編
12月、リモートでのインタビュー。ソファに座った大久保嘉人(39歳)は、モニターに向かって身を乗り出した。表情はやや疲労が滲んだ。
「忙しい。疲れる」
大久保は隠さずに言った。
今シーズン限りでの現役引退を発表して以来、多忙を極めていた。セレッソ大阪での引退会見からホームでの最終戦セレモニー、Jリーグ最終戦、天皇杯、浦和レッズとの現役ラストマッチ、イベント出演やメディア対応が目白押し。今回のインタビューもリスケが必要なほどだった。
大久保は、J1リーグ歴代通算最多191得点を叩き出している。2度のワールドカップに出場し、日本サッカーの歴史に残るFWと言える。そのゴールシーンはサッカー界を彩ってきた。
191ゴールの「ヨシメーター」とともに写真に収まる大久保嘉人この記事に関連する写真を見る しかし、ピッチを去る大久保は淡々と言った。
「自分はストライカーじゃない」
その真意とは――。
【30歳を超えてサッカーが面白くなってきた】
――引退を余儀なくされる選手が多いなか、自分で引き際を決められるのは幸せですね。
「確かに、最高ですね。そういう選手になりたいって思っていたから。なれてよかったなって」
――20代前半のインタビューでは、「30歳になる前にサッカーをやめる。ボロボロになるまでやっていたくない」と語っていました。
「若い時にそう言っていたのは、30歳になったら、もう歳で動けない、ケガとかあるって想像していたんだと思う。30歳を超えてもやめずにいられたのは、よりサッカーをわかってきて、面白くなってきたというか。プレッシャーとの戦いのなか、簡単にプレーするって言ったら、あれやけど、昔よりもサッカーの楽しさが増してきた」
――それは(川崎フロンターレの監督だった)風間(八宏)さんとの出会いが大きかった?
「それが一番大きいですね。あそこで、"ずっとやりたい"と思っていたプレーに会えた。それまでは実際にやったことがなかったから、理想のプレーを周りに話しても、誰にも響かなかった。でも、風間さんと会って、"来た!"と思った。それからすごく楽しくなって、"これがサッカーなんだよ"って自分でも思えた。間違っていなかったんだな、って自信になった」
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