名門復活。逆転Vの静岡学園の「異質なサッカー」は革命的だ (2ページ目)

  • 原山裕平●取材・文 text by Harayama Yuhei
  • 高橋学●撮影 photo by Takahashi Manabu

「決勝特有の雰囲気のなかで、ボールを受けることを怖がってしまったのかなと」

 川口修監督が指摘したように、ボールを受けてこそ成り立つ静学スタイルは、大舞台の重圧の前に沈黙した。

 ただ、静岡学園にとって幸運だったのは、前半アディショナルタイムに1点を返せたことだ。セットプレーから相手のクリアミスを逃さず、中谷颯辰(そうしん)が右足を振り抜いた。

 流れや時間帯を考えても、この1点こそが試合のターニングポイントとなったことは間違いない。

「自分たちのミスから失点してしまったところから、プランが崩れ始めた」

 青森山田の黒田剛監督も、この失点の影響を認めている。

 息を吹き返した静岡学園は、後半に入ると見違えるような姿を示した。

 その要因のひとつは、選手たちの距離感に見出せる。前半は最終ラインと中盤の距離が遠く、コンパクトな陣形を保てていなかった。縦パスがなかなか通らなかったのも、距離感の悪さが原因だった。

 ところが後半に入ると、その課題が一気に改善。「自分がもう少し高い位置でプレーして、ラインを上げて前に行けば改善できると思っていた」と、最終ラインを統率する阿部が話したとおり、全体をコンパクトにし、いい距離感を築いたことで、静岡学園の攻撃は一気にスムーズとなった。

 中盤にいい形でボールが入る機会が増え、そこからドリブルとショートパスを織り交ぜながら、敵陣へと侵入していく。たとえ失ってもいい距離感を保っているため、即時奪回も実現。セカンドボールを回収するシーンも増加し、多くの時間を青森山田陣内で過ごした。

 61分に巧みなパス回しと鋭いカットインから生まれた加納大(はる)の同点ゴールは、まさに静学スタイルの真骨頂と呼べるものだっただろう。完全に勢いに乗った静岡学園は85分にセットプレーから3点目を叩き込み、鮮やかな逆転劇で全国の頂点に立った。

「相手は、とにかく隙のない絶対王者。青森山田さんにもし勝つならば、我々のストロングポイントを120パーセントくらい出せないと、おそらく勝てない。

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