止まらないトリニータ旋風。
「片野坂流」は愚直でブレない (2ページ目)
片野坂監督が求めるのは、最終ラインからボールをつなぐポゼッションスタイルだ。プレッシャーから逃げることなく、しっかりとボールをつないで相手の隙を探っていく。そしてスペースを見出すや否や、一気に攻撃を加速させ、サイドチェンジやロングフィードでその隙を突いていく。サンフレッチェ広島時代にコーチとして師事したミハイロ・ペトロヴィッチ監督の影響を感じさせるサッカーである。
もっとも、チームや選手が異なる以上、戦術的にも戦略的にも「片野坂流」はしっかりと主張されている。なかでもオリジナリティあふれるのは、その立ち振る舞いである。
試合中、大分のベンチ前では、常に動き回る監督の姿を見ることができる。「ここに出せ」「ここを埋めろ」とばかりに、テクニカルエリアを右往左往しながら、大きなジェスチャーで選手に訴える。まるで自らがピッチ上で戦っているかのようである。そのキレのある動きはサイドバックとして活躍した現役時代を彷彿させるもので、この日も決勝点が決まった瞬間、真っ先に後藤のもとに走り込んだのは、他でもない片野坂監督だった。
「ブレない監督ですね」
そう話すのは守護神の高木だ。
「本当にこだわり抜いてやっていると思います。だから、僕たちも監督のやりたいことを理解できるし、求められることをしっかりやれる選手しかいないと思います」
確固たるスタイルを持っているからこそ、選手たちは疑うことなく、信じてついていく。夏場以降に勝てなくなった時期でも、これまでのやり方を貫き通すことで、復調の道を探った。
「これまでに積み上げてきたものが、しっかりと自分たちのものになっている。結果が出ない時期にも大きく変える必要はないし、やっていることが悪いわけじゃないと思っていた。監督がブレないので、選手もブレないんです」(高木)
浦和戦でも、前半こそ主導権を握る戦いを実現できていたが、後半に入ると前からのプレスを強めてきた浦和に対しボール保持がままならず、押し込まれる時間帯が続いた。それでも大分は、やり方を変えようとはしなかった。はたから見ていると、他のやり方――たとえばロングボールを蹴り込む手段――もあってもいいのではと感じていたが、愚直にやり続けることで、劇的なフィナーレを生み出したのだ。
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