トーレスも業を煮やして中盤へ。鳥栖の状況は昨季以上に深刻だ (3ページ目)

  • 原山裕平●取材・文 text by Harayama Yuhei
  • photo by Getty Images

 パスワークや連係で崩してくのが理想だが、状況に応じて、シンプルに前に預けるやり方があってもいいはずだ。ましてや、アバウトなボールを収められる人材がいるのだ。それを生かさない手はないだろう。

 途中出場のフェルナンド・トーレスも、「早くボールを入れろ」というジェスチャーを見せたものの、なかなかボールが出てこない状況に業を煮やし、中盤にまで下がってきてしまう場面も見られた。

 かたや鹿島には、試合の流れを読む目が備わっていた。ボールを保持して時間を作るとき、一気にスペースを突いて相手を押し込むとき――状況に応じた柔軟性が、このチームの強さの秘訣だろう。

 あるいは、守備でもそうだ。後ろに人数をかけて対応する場面もあれば、相手に流れが渡りそうな時間帯には一気にスイッチを入れ、前からボール奪取を狙っていく。その感覚をチーム全体で共有できているから、バランスが崩れない。

 単純に個々のうまさや強さという部分だけでなく、組織力という意味でも、鹿島は鳥栖を凌駕していた。

「今日の試合もそうだし、他の試合でも大差で、ボロボロにやられているわけではない」

 鳥栖のキャプテンを務める福田晃斗は、前向きに話す。一方で、このままではいけないという危機感も示した。

「守り切るところと、取り切るところが、他のチームよりも欠けているのかなと思う」

 たしかにやられっぱなしではないし、チャンスが作れないわけでもない。しかし、ここぞという場面で守り切れず、ゴールを奪えない。勝負どころでパワーを注ぐことができない=試合の流れを見極めることが今の鳥栖には欠けているのかもしれない。

 今季はまだ14試合残っている。残留争いを深刻に語るのは、早計だろう。一方で、もう14試合しかないという捉え方もできる。

 昨季も残留争いに巻き込まれた鳥栖は、終盤に監督交代を決断。残り5試合を3勝2敗で乗り切り、土壇場で残留を勝ち取った。

 しかし、今季はすでにその一手を打ってしまっている。スタートダッシュにつまずき、監督交代で息を吹き返したかと思えば、状態は再び下降線を描いている。そんな状況を踏まえれば、事態は昨季以上に深刻だ。

 2012年以来、J1にとどまり続ける地方クラブに、今、最大の危機が訪れている。

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