中村俊輔の加入が横浜FCに
もたらす効果。J1昇格への切り札となる
肌にまとわりつくような蒸し暑さに辟易していたスタンドの人々が、一瞬にして刮目したように沸いた。
「新しく加入した中村俊輔です!」
試合前、ピッチ脇でマイクを持った中村俊輔(41歳)が、横にいたスタッフと何やらやり取りした後、スタジアムのファンへ向かって簡潔に挨拶をしたのだ。
今夏、中村はJ1ジュビロ磐田からJ2横浜FCへ電撃的に移籍している。現在はコンディション調整中で、フルの練習メニューには参加していない。かつてスコットランドのセルティックで、マンチェスター・ユナイテッドを震え上がらせたようなプレーは望めないにせよ、その技術と経験は貴重で、昇格を目指すチームに化学反応をもたらすはずだ。
「(中村は)勝負どころ、ピンポイントでも活躍が期待できる」
横浜FCのチーム関係者は、獲得の理由をそう洩らしている。昨シーズン、チームは堂々と首位争いを演じたものの、最後は力尽きて3位。プレーオフに回らざるを得ず、惜しくも昇格を逃した。
スタジアムの一角がざわめく。
「俊輔、一緒に写真撮ってくれてる!」「優しいね」「サインもらってこようかな?」「もう行っちゃうよ」......。
スタンドに上がった中村に対して、付近のファンが放射線状に色めき立っていた。日本代表として98試合に出場するなど、世界を舞台に戦ってきたレフティの人気は衰えない。左足のキックは芸術の域。入団後は、横浜FCの練習を見学に来るファンの数が目に見えて増えているという。
横浜FCの入団発表に臨んだ中村俊輔 中村の加入で競争原理が働けば――。
7月20日、ニッパツ三ツ沢球技場。3連勝で9位に浮上した横浜FCは、20位に沈む栃木SCを迎え撃っている。昇格争いをするため、勝ち点を落とせない一戦だった。
しかし、横浜FCは立ち上がりからギアが入らない。スローペースで攻撃は単発。ボランチに入った田代真一がバックラインに落ちてビルドアップをするが、敵陣深くまでは入り込めない。そして相手の韓国人FWキム・ヒョンとの肉弾戦で後手に回って劣勢を強いられるなか、前半30分には、大島康樹を自陣で倒してしまい、PKを取られる。これを大崎淳矢決められ、先制点を奪われてしまった。
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