大分をJ1昇格に導いたトレーニング「ライフキネティック」の可能性

  • 佐藤主祥●取材・文・撮影 text & photo by Sato Kazuyoshi

「普段やらない新しいことをやることは脳に刺激を与えます。それによって頭が活性化するので、選手たちには何かが覚醒したような感覚があったのではないでしょうか」

 2018シーズンに6季ぶりのJ1復帰を決め、2月23日の開幕戦で鹿島アントラーズを破った大分トリニータ。その躍進を支える安田好隆コーチは、選手たちが高いパフォーマンスを維持する要因のひとつである「ライフキネティック」についてそう述べた。


ライフキネティックを体験する大分の新加入選手たちライフキネティックを体験する大分の新加入選手たち ライフキネティックとは、近年スポーツ界で注目を浴びているドイツ発祥の脳活性化プログラムだ。すべての人の「脳」をよりいい状態にし、未開発な部分を活性化させることを目的として、ドイツの運動指導者であるホルスト・ルッツ氏が開発。脳神経学、運動学などの最新研究から、さまざまなメニューをこなすことで得られる効果を理論的に導き出し、認知機能、学習能力、運動のパフォーマンス向上へとつなげていく。

 あらゆるジャンルのスポーツで導入が進んでいるが、とくに発祥の地であるドイツのブンデスリーガでは多くのチームがこのプログラムを活用。有名なのは、香川真司が今年1月まで所属していたドルトムントだ。

 ユルゲン・クロップ監督(現リバプール監督)がチームを率いていた時代にトレーニングメニューに取り入れると、2010年からリーグ2連覇を達成。その手腕を記した書籍『ユルゲン・クロップ 選手、クラブ、サポーターすべてに愛される名将の哲学』でも、ライフキネティックについて触れている。

 しかし、日本での知名度はさほど高くない。Jリーグで導入しているクラブは、大分とジェフユナイテッド市原・千葉(アカデミーのみ)の2チームのみ。サッカー以外の競技では、アマチュア野球、水泳、格闘技、ソフトテニスなど幅広く導入されつつあるが、表立って取り上げられていないのが現状だ。

 その理由のひとつとして、効果を数値化しにくいことが挙げられる。

 大分が昨季、ライフキネティックを実施してから臨んだ24試合は、13勝6分5敗(敗率20.8%)。一方、ライフキネティックを行なわずに戦った19試合では10勝1分8敗(敗率42.1%)と、数字を見ると「ライフキネティックなし」の試合では負ける確率が高くなっている。

 だが、これは単純なチーム成績のデータに過ぎず、同トレーニングの効果によるものとは断言できない。つまり、ライフキネティックが選手に与える影響を明確に数値化することができていないのだ。安田コーチも「具体的にどういったメカニズムで作用しているかはわからない」と言う。

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