同じシステムも持ち味は大違い。予測力の湘南が支配力の札幌を下す

  • 井川洋一●取材・文 text by Igawa Yoichi
  • photo by Kyodo News

 同じ形でも両者の狙いは違う。2019年J1リーグ開幕節のうち、最後にキックオフの笛が吹かれた「Shonan BMWスタジアム平塚」のピッチで、3-4-2-1のシステムを組んだ湘南ベルマーレコンサドーレ札幌が対峙した。

 先にペースをつかんだのはアウェーに乗り込んできた札幌だ。

 指揮官に就任して2年目のシーズンを迎えた"ミシャ"ことミハイロ・ペトロビッチ監督のもと、「後ろから連動して崩していく練習をひたすらやっている」と主将の宮澤裕樹が話したとおり、スタートの並びこそ3バックながら、マイボールになると形は自在に変化。セントラルMFのひとり、深井一希が最終ラインに下がって配球役になると、左CBの福森晃斗が押し出されるように外の高い位置に張る。

 ウイングバックの菅大輝と縦に並んだ福森が「まずは相手のタテのズレを狙った」と振り返ったように、左のセカンドストライカーであるチャナティップを含めた3人のコンビネーションで、左サイドを攻略していった。
 
 実際、札幌は序盤の24分までに左サイドから再三チャンスを作ったが、FWジェイの2度のヘディングは湘南のGK秋元陽太にセーブされ、チャナティップの鋭いクロスは松田天馬のスライディングに阻止された。そのように優勢な時間帯にゴールが奪えないと、主導権は移ろうものだ。

「押し込まれていても、やられている感覚はなかったので、焦る必要はないと思っていました」と振り返ったMF杉岡大暉が、前半26分に際どいミドルを放ったあたりから、湘南も徐々にリズムを掴んでいく。そのシーンに至るまでの流れに、今季の湘南の方針が凝縮されていたように思える。

開幕戦で札幌に勝利し、ハイタッチを交わす湘南イレブン開幕戦で札幌に勝利し、ハイタッチを交わす湘南イレブン 中盤のパスミスから一旦は相手にボールを渡しながらも、齊藤未月が再び奪い返す。8シーズン目の指揮を執る曹貴裁(チョウ・キジェ)監督が今季のテーマのひとつに掲げる「予測力」を大いに発揮した20歳の背番号16は、武富孝介とのワンツーで相手の裏のスペースに抜け出したあと、左に展開して杉岡につないだ。球際の激しさや献身性といった従来の湘南スタイルはそのままに、次のレベルを目指すべく、新シーズンの湘南が取り組んでいるもの。それが"予測すること"だ。

 支配力の札幌と予測力の湘南。両者の持ち味を端的に表せばそうなるだろう。そのパワーバランスは時間の経過とともにホームチームに傾いていき、「自分たちがボールを持ったときに、どれだけ相手が嫌がることをできるか」と、プレシーズンから曹監督が語る狙いも表現されていく。

1 / 2

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る