新生鳥栖に暗雲漂う。スペイン人監督の
「戦術トーレス」は諸刃の剣だ

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki 岸本勉●写真 photo by Kishimoto Tsutomu

 Jリーグ開幕を1週間後に控えたトレーニングマッチ。J1サガン鳥栖はJ2アビスパ福岡を返り討ちにする形で、2-1の逆転勝利を収めている。エース、フェルナンド・トーレスの決勝点が決まって、結果だけを見れば申し分ないものだった。

 しかし、その内容は、晴れやかではなかった。

ジョーのいる名古屋グランパスと対戦するサガン鳥栖のフェルナンド・トーレス(左)ジョーのいる名古屋グランパスと対戦するサガン鳥栖のフェルナンド・トーレス(左)「前半は相手の方が全体的によかった。ボールを奪う強度でも、チャンスの多さでも。後半は(鳥栖が)システムも変えて、それぞれが責任を持ってプレーし、逆転することができた。それはサッカーでは簡単なことではない」

 新たに監督に就任したルイス・カレーラスは、勝利に胸を張った。開幕を前にのぞいた"暗雲"は、幻だったのか。

「バックラインは2タッチで(ボールを回せ)」「とにかくサイドチェンジ。幅を使え」「まずはトップを見ろ。トーレスに通せ」......。

 カレーラスが選手たちに伝えてきた言葉は繰り返され、今やひとつの記号のようになっている。

「Vigilancia」

 スペイン語で監視、警戒、用心を意味する言葉も多用されている。攻撃をしているときでも、守備のポジションを失わない。攻守一体を示す用語だ。

 指示そのものは不合理ではない。しかし、試合のなかでは裏目に出てしまっている。

「バックラインは2タッチで」という決めごとの練習は、迅速なビルドアップを促すためのものだろう。しかし、Jリーグでは前線から激しいプレスが行なわれる。福岡のプレッシングに嵌められてしまうと、応用力に欠け、ボールをGKへ返すしかなかった。

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