ありがとう、川口能活。43歳のGKはクラマーの名言を体現した (3ページ目)

  • 中山淳●取材・文 text by Nakayama Atsushi
  • 藤田真郷●撮影 photo by Fujita Masato

「3年前に能活にオファーを出して、このクラブでプレーしてくれると言ってくれたときから、彼の花道の作り方を考える責任があると考えていた。有名選手が寂しくフェイドアウトすることが多いこの世界だけど、今日こういう形で送り出せてあげたことについてはホッとしているし、やり遂げた気持ちもある。やっぱりこういうことは、クラブの協力がなければできないことだと思うから。

 それに、ようやくこのスタジアムを満員にすることができた。このクラブを立ち上げた時の大きな目標は、プロチームを作ることと、スタジアムを(SC相模原カラーの)緑で満員にすることだったから、そのふたつ目の目標が叶った今日は、自分にとってもクラブにとっても大きな意味がある。

 もちろん、これまでの積み重ねもあるけど、そこには確実に能活の力もあるわけで、これからは彼が残してくれたいろいろな財産を生かして成長していかなければいけない」

 高校時代の先輩と後輩。そして、今はクラブの代表と選手の関係。これも巡り合わせなのか、川口の人徳なのか。少なくとも、トップレベルを知り尽くした元プロ選手が代表者を務めるクラブでなければ、川口がこれほど感動的な最後の花道で現役を退くことができなかったことは間違いないだろう。

 サッカーは1チーム11人で行なう競技だが、そのなかのひとりの選手がチームをひとつにし、持っている以上の力を出させることができることがわかった。また、ひとりの選手がスタジアム全体の雰囲気を変え、観る者に喜怒哀楽を超えた"幸せ"を運んでくれることも、この試合を通じて痛感させられた。

 おそらくこの日スタジアムに足を運んだ人々は、めったに味わえない幸せな気持ちでスタジアムを後にしたことだろう。川口能活の現役ラストマッチは、だからこそスペシャルだった。

「まだ、余力はあります。ただ、この余力をまた別の立場で日本サッカー界の発展に貢献していきたいと思います」

 セレモニーの挨拶のなかで、日本最高峰のゴールキーパーは最後に力強くそう言った。サッカーで幸せを与えてくれた男の未来に、また何かを期待せずにはいられない。

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