鹿島の選手のJデビュー時。椎本邦一は「親みたいな気持ちになる」 (5ページ目)

  • 寺野典子●文 text by Terano Noriko
  • 井坂英樹●写真 photo by Isaka Hideki

――やっぱり、高卒なら2、3年の時間は必要だと。

「身体も出来てないですしね。本人の気持ちが大前提ですが、最低3年は様子を見ようと考えています。僕の仕事は、契約を結んで終わりじゃない。だから、試合や練習が見られるときは、それを見て、必要な声をかけるようにしています。ときどき嫌味を言うことさえあります(笑)。いきなりプロという環境に立ち、舞い上がる選手もいます。僕らは親御さんから、息子さんを預かったわけですから、プロサッカー選手としてだけでなく、社会人としても育てる義務があると思っているので」

――スカウトをしていて、一番うれしいことはなんですか?

「鹿島を選んで、来てくれた選手が、試合に出ることですね。代表に選ばれる以上にJでデビューしたときがうれしいですね。本当にドキドキしますよ。『つまらないプレーをしたらどうしよう』とか、『大したことないなと思われたら......』とか(笑)。まるで『はじめてのおつかい』の親みたいな気持ちになりますね。なかには数年かかる選手もいるから。もちろんワールドカップ出場もうれしいけれど、デビュー戦は格別ですね」

――24年間のスカウト人生ですが、「嘘をつかない」という以外に、大切にされていることはなんでしょうか?

「『足を運ぶ』ということですね。顔を覚えてもらうことがまず一番。今は少なくなったけれど、昔の高校の先生たちは本当に個性派ばかり。2、3度名刺を渡しても、なかなか覚えてもらえない。しばらくして出向くと、やっぱり忘れられている(笑)。そういう先生や監督さんには、厳しいことを言われることもありましたが、本当に鍛えてもらえたなと感じています。そして、『鹿島に声をかけてもらった選手は確かだ』と言ってもらえたときもうれしかったですね」

――還暦を迎えられたわけですが、今後のことについては。

「実際、夏のインターハイを1日3試合も見るというのは結構大変です(笑)。でも、この仕事をやめるというのは想像できない。今更違うクラブの名刺を持って、出向くなんておかしいでしょう?(笑)。僕は鹿島しか知らないし。練習に参加したり、移籍加入した選手が『やっぱり鹿島はほかとは違う』と言ってくれたりしても、ピンとこない。これが当たり前の光景で空気なんだけどなぁって」

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