モーツァルトを聴き叩き込む。サガン豊田陽平が語る奥深いゴールの極意
豊田陽平(サガン鳥栖)の2016シーズン総括(後編)
前編を読む>>
2016年10月、佐賀県鳥栖。ランチで入ったお店で、差し出された冷たいおしぼりを受け取った。豊田陽平は帽子を脱いでから顔を拭いた。午前中は長男の運動会に参加。朝から蒸して、日差しも夏のようにきつく、父は汗と埃にまみれていた。
「ボールが入ってきそうにないときの方が相手は油断しているんで、入ったらチャンスになります。そこは平常心ですね。シチュエーションを想定して、自分をロボット化しておいたら、無心で動ける」
グラスに入った冷たい水を、豊田は飲み干して言った。
Jリーグ最終節、山本英臣(ヴァンフォーレ甲府)とヘディングで競り合う豊田陽平 前日のベガルタ仙台戦で、シーズン12得点目を決めた。難易度の高いゴールだった。中央右寄りからセンターバックがやや当てずっぽうに蹴り込んだクロスを、バックステップを踏みながら頭で合わせてファーポストにねじ込んだ。ほとんど何もない(=攻め崩していない)状況から生み出した得点だった。
「今シーズン、チームメイトとすり合わせる中、GKとDFの間にはあまりボールが入ってきませんでした。だから、それを予測して少し下がりながら合わせたら、ボールが入ってマークも外せて。ただバックしているんで、そこまで前に力は入らないので、せっかくスピードのあるボールだったから、ニアへ勢いを殺さずに打ち込もうと。(過去のゴールの)経験が積み重なった形ですよね」
1 / 8