モーツァルトを聴き叩き込む。サガン豊田陽平が語る奥深いゴールの極意 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki photo by AFLO

 その時点では残り3試合、5年連続15得点以上の記録にあと3点と迫っていた。

 豊田はコンスタントにゴールを奪い取っている。5年間の得点合計では、3年連続得点王の大久保嘉人の86得点に次ぐ82得点。

「ゴールは過程を踏んで、駆け引きして作り上げるものなんです」

 そう語る豊田の声がかき消されそうになる。お昼どき、団体客が入ってきたのか、隣の部屋が騒がしくなってきた。

「ゴールは過程の"深さ"がモノを言ってくるんです。駆け引きや連係や。でもこれが、どーんと来たボールを合わせただけの方がいいときもある。"浅く"てもゴールになるときはなるんです。ゴールには理由はあるのですが、理屈だけでもない。簡単そうで難しいから、FWやっていて楽しいんです。本能で動けるというのは一番いいんだけど、それだけではダメ。積み重なった"深さ"も必要で」

 彼のヘディングシュートは職人芸で、ひとつの作品となりつつある。ヘディングは、身長が高く跳躍力に優れているだけでは勝てない。相手ディフェンダーとのつばぜり合いによって、勝負はヘディングをする前にほとんど決している。どこにボールが入るのかを迅速に読み解き、相手のマークを一瞬だけずらす。それは幾つもの場面を経て、熟練させてきた感覚だ。

2 / 8

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る