2015.12.06

【育将・今西和男】松田浩「ディフェンスが、こんなにもおもしろいとは」

  • 木村元彦●文 text by Kimura Yukihiko   photo by AFLO

「うるせえ」と即座にバクスターは却下した。「俺が戻れと言ったら、戻りゃあ、いいんだよ。今西には俺から言っておく」

 ドライな外国人監督でなければ、この後サンフレッチェで3年、ヴィッセル神戸で2年と続いた松田のプロサッカー選手としての人生は、ここで終わっていたとも言えよう。

 Jリーグ開幕の前年に行なわれたナビスコカップで復帰を果たした。復帰した7節のガンバ戦で、初めてバクスター直伝のゾーンディフェンスをかぶせたときの快感を、今でも松田は忘れられないでいる。3-1で勝ち、続く横浜フリューゲルス戦も5-1で勝利した。続く鹿島との1戦には敗れて、決勝トーナメントには進めなかったが、これまで1度も経験したことのない斬新なサッカーに酔った。

「ディフェンスって、こんなにもクリエイティブでおもしろいのか! 夢のような世界だ。ボールが動けば、流動的になるから100%マンツーマンも100%ゾーンも実質存在しないが、この戦術がベースにあれば、何にでも対応できるぞ」

 実際にバクスターの持ち込んだゾーンプレスは、Jリーグ開幕と同時に日本のメディアがもてはやした加茂周(当時、横浜フリューゲルス監督)のゾーンプレスよりも数倍洗練されたレベルのものであった。

 加茂のゾーンプレスが、ボールの動きを無視してエリアも時間も関係なく、やみくもにプレスに行くのに対して、バクスターのそれはクォータープレス(1/4プレス)の別称を持ち、特定のエリアに入ってきたときに一気にプレスをかけてボールを狩る。相手が引いているときは行かず、穴を見つけてから一気に襲い掛かるのだ。前から行くのもリトリートも、どちらが正解ということではなく、大切なのはいつプレスに行くのが効果的なのかを見極めるということだった。