現役引退の佐藤由紀彦。岡崎慎司からの意外な反応 (3ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 松岡健三郎/アフロ●写真

 30代に入ってからの佐藤は、若手の手本としての力が評価されるようになっている。

「オレは若い選手よりも立場が上とか、そんなこと考えたことない。戦う背中なんて勝手に見ろっていう感じ(笑)。意識なんてしていません。本能のおもむくままやっているだけ。上も下もない、対等ですよ」

 そう言ってのける硬骨さが、若手選手の胸を打つのだろう。選手は本来、純粋な心を持っている。本気を見せたら、響くものなのだ。柏レイソルのMF大谷秀和など、彼が在籍した各クラブで心酔する選手は少なくない。

 引退を決めた後、佐藤は2011年に心不全で亡くなった親友、元日本代表DFの松田直樹の墓前に報告するため、群馬県の桐生市へ向かっている。そこで松田の母と合流し、無心で拝んだ。その後は、実家でご飯をご馳走になっている。位牌がすぐ近くにあって、気分が安らいだという。松田が大好きだったという桐生名物のコーン入り焼きそばを食べる機会もあった。

<おまえと同じ味が好きだったよ>

 偶然にも地元、静岡にも同じ味の焼きそばがあって、それが彼は嬉しくなった。

「オレが引退するって話をしたら? 直樹はたぶん言うと思いますよ。『やめんなよ』って。それが彼なんで」

 二人は常にしのぎを削り合ってきた。お互いが刺激し合い、高め合い、馴れ合ったことがなかった。

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