現役引退の佐藤由紀彦。岡崎慎司からの意外な反応 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 松岡健三郎/アフロ●写真

 愚直に生きてきた男が、20シーズンに及ぶ選手生活にピリオドを打つ決断をすることになった。

「この日、このときに引退を決断した、というのはないんです」

 佐藤は静かな口調で言う。

「ただ、今年1年契約を結んだときに、"半年で一回、自分という選手を客観視するようにしよう"とは思っていました。チームは前の年と違って苦戦している状況だったのに、自分は出場どころか、メンバーにも入らないまま。"監督の構想に入っていないんだな"というのが現実でしたね。でも、オレの場合はそこで"今は入っていないだけ"と思うんですよ。負けていない、もっとうまくなってやるよって。18歳のガキの頃と同じですよ。諦めが悪いんですよね」

 構想外であることを認めず、黙々と練習に打ち込み、プレイを続けた。そんな毎日は、容赦なく身を削る。練習が始まれば、"やってやる"と全力を尽くしたが、その思いがどこにも届かない2年間を彼は過ごしてきた。20年目、いつしか疲れ果ててしまったのだろう。

 引退という決意報告を、親しい友人、知人に順々にすることになったとき、ほとんどが受け入れるような返答がきたという。佐藤のストイックさを誰もが知っていたからだ。唯一例外だったのが、清水エスパルス時代の後輩、日本代表FWの岡崎慎司だった。

「えっ、という反応で、意外なものでした。"まだできますよ"っていう感じで。実を言えばオカ(岡崎)にはなぜか話しにくかったから、わりと引退発表の直前に連絡したんですよ。それは何となく引き留められるのを恐れていたのかもしれない、なんて思いましたね。まあ、あいつがなんでそう言ってくれたのか、(海外でプレイしていて)状況を把握していないこともあったのだと思いますが」

 岡崎は「ユキさんほど選手にいい影響を与えられる選手はいない」と語っているように、心底リスペクトしている。自身もプロ選手としての教えを受けた一人だった。そのクロスボールの質の高さも体感していた。まだ現役選手をやめて欲しくない、やめるべきではない、というのは素直な表現だったはずだ。

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