1年間のブランクを経てトライアウトに参加した最年長GK (3ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 藤田真郷●写真 photo by Fujita Masato

「腰の故障から復活して以来(98年、横浜F・マリノス)、自分は“これで最後になるかもしれない”という覚悟でゴールマウスに立ってきました。パラグアイではレセルバ(リザーブチーム)の練習を、牛がモーモーと啼いている牧草地でやりましたね。ボールは三つ、ネットもない木枠のゴールがあるだけ。ゴールキーパーはセービングで倒れると、体は牛の糞まみれです。でも嫌がるなんてあり得ない。ボールに飛びつく、それしか考えませんでした」

 彼はいつしかプロとして一つの境地に達したのだろう。

「92年頃、鹿島時代にジーコが言っていたんですよ。その日、クロスからのシュート練習だったんですけど、ゴール前は大雨のせいで水溜まりができて、みんなそこを避けるようにしてシュートをしていました。僕はGKをしていたんですが、ジーコが突然『俺に上げろ』と言い出し、いきなり水溜まりに飛び込んだんです。そして、『ここだ、ここにゴールはあるんだ!』と叫んで。今なら、その意味がよく分かりますね」

 プロ契約のない1年を、プロ選手の魂で戦った小澤は、再びゴールマウスに立つことを望んでいる。彼が現役プロサッカー選手を続けられるのか、あるいは違う道を行くのか。それはまだ分からない。しかしトライアウトのゲーム後、彼はゴールポストに感謝の口づけをした。それは戦い終えた彼の作法だった。

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