サンフレッチェの切り札。野津田岳人への「驚くべき待遇」 (2ページ目)

  • 原田大輔●text by Harada Daisuke
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano MIKI

 初ゴールを記録したのは、第12節(5月18日)のヴァンフォーレ甲府戦だった。ゴール前で何度も動き直しをして、混戦から髙萩のパスを受けると左足で押し込んだ。「ここからが僕にとってのスタート」と話した初ゴールで、さらに勢いに乗るかと思われたが、その後はしばし苦しむ。出場時間が短いこともあり、得点に絡めない試合が続いていた。

 そんなルーキーの苦悩を先輩たちは感じ取っていたのだろう。第27節(9月28日)のサガン鳥栖戦でMF石原直樹が倒され、PKを獲得すると、先輩たちは野津田に大事なキッカー役を任せた。1-0でリードし、後半42分という時間帯だったとはいえ、決して安心できる状況ではなかったはずだ。にもかかわらず、その大役をルーキーに託すという先輩たちの粋な計らいは、野津田に対する大きな期待の表れなのだろう。同時に、彼の成長なくして、チームのレベルアップはもちろん、リーグ連覇は見込めない、という思いがあったのではないだろうか。

 そして、そんな先輩たちの期待応えて見事PKを決めた野津田は、自ら抱えていた迷いがなくなったのか、なお一層先輩たちの思いに報いようとしたのか、続く第28節(10月5日)の清水エスパルス戦で、途中出場から2得点をマーク。特に、右サイドのミキッチからパスを受け、ミドルレンジから豪快に左足を振りぬいた1点目は圧巻だった。彼の持ち味である大胆さが、最大限に発揮されたゴールだった。

 優勝争いをする他チームと比較すると、広島の攻撃陣はとても層が厚いとは言えない。2列目からの得点が期待できるMF森﨑浩司の出場が未知数の今、1トップの佐藤、2シャドーの髙萩、石原に代わって攻撃を担えるのは、野津田しかいない。

 選手交代において、森保監督はまず運動量の多い両アウトサイドを代える傾向にある。それでも流れが変わらなければ、野津田を投入する。そこにあるメッセージは、常に「流れを変えてこい」「得点を奪ってこい」である。

 それだけの魅力、攻撃センスが野津田にはある。ユース時代から"サンフレッチェのサッカー"が十分に体に染みついていて、1タッチ、2タッチで展開されるパスワークは難なくこなせる。それでいて、バイタルエリアでボールをキープする技術や、ドリブルで持ち運ぶ力がある。そして、清水戦で披露したような、豪快なシュートを決める得点力をも秘めている。

 野津田の大先輩である森﨑和が言う。

「ガク(野津田)には洋次郎とも直樹とも、また違った良さがある。サイドも中央も攻めあぐねている苦しい状況でガクが入ると、またボールが回せるようになる」

 優勝するチームには、奇跡的なゴールを挙げ、勝利をたぐり寄せる"ジョーカー"とも、"ラッキーボーイ"とも言える存在が登場する。先輩たちに愛され、清水戦の2得点で勢いを増す「期待のルーキー」野津田こそが、広島にとって連覇への切り札となることは間違いない。

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