なでしこジャパンが覚醒! ニールセン新監督の指揮で強敵アメリカ撃破 何が起こった? (2ページ目)
【選手それぞれに明確な役割を与えた】
もちろん、精神論だけでいい変化が生まれるわけではない。もうひとつは、これまでの"バランス"という言葉で曖昧にせずに、選手それぞれに明確な役割を与えたこと。これで不思議なほどチームの共通認識が高まった。
田中美南(ユタ・ロイヤルズ)の動きを例にするとわかりやすい。もともと彼女はFWのプレーエリアである前線を離れ、自陣深い位置まで落ちてチャンスメイクも得意とするが、それはゴール前から離れて得点する機会から遠ざかることも意味する。今回は彼女が持ち場を離れた際は前線のウイングふたりが高い位置を取り、そこにボールが入れば再び田中を生かすプレーも多々見られた。事実、田中は今大会4ゴールを挙げ、得点王とMVPを獲得した。
「(トップから)中盤に落ちて自分が10番の位置を取ることに迷いがなくなった。距離感よく周りの選手とローテーションできているので、アップダウンの辛さもないんです。監督も献身的な動きを評価していると言ってくれるので、そこはやり続けたいです」(田中)
今回のなでしこジャパンの快進撃の原動力となったプレッシングには、先のふたつ要素が必要だった。攻守の主導権を握るためのカギはトランジション(切り替え)。奪われたら、すぐさま奪い返して攻撃へ――。選手たちはこれをピッチのあらゆる場所でやり続けた。
このプレッシングによってプラスの効果が生じたポジションがアンカーだ。初戦は熊谷紗希(ロンドン・シティ・ライオネス)がその位置を担った。熊谷はこのポジションに特別な想いがあった。高倉麻子監督時代から何度か挑戦するも、システム的になかなか機能していなかったからだ。
ところがオーストラリア戦では、「熊谷がアンカーで機能すればこの効果あり」と想像していたとおりの局面が繰り広げられた。前線が全力プレスで追い込んだボールを熊谷が刈り取り、相手に押し込まれた際には最終ラインで攻撃を無力化する。これには熊谷本人も「すごくクリアにプレーできたし、楽しかったです(笑)」と、初めて掴んだ手応えに笑顔がこぼれた。
ニールセン監督は熊谷のアンカー起用に関して、そこに彼女の強い姿勢があったことを明かしている。
「彼女がアンカーに何度もチャレンジし、うまくいかなかったことも知っていました。それでも彼女はアンカーにチャレンジしたいと言ってくれた。チャンピオンズリーグを5回制し、ワールドカップでも優勝しているすばらしい経験値を持っている。特に私からのアドバイスは必要ありませんでした」(ニールセン監督)
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