サッカー日本代表に重大懸念 三笘薫がウイングバックに入れば「サイドバック」は消えゆく運命に (3ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

【「超攻撃的3バック」の負の影響】

 久保、三笘の両ウイングがバルサ戦、マンチェスター・シティ戦で活躍する姿を見ていると、20年前の日本がありありと蘇る。と同時に歴史に学べと声高に叫びたくなる。

 1998年、フィリップ・トルシエが日本代表監督に就任すると、Jリーグの各クラブの半分以上は、その専売特許だった3-4-2-1(フラット3)に布陣を変えた。高校、中学、さらには小学生のチームと、トルシエ式3バックはまさに日本の津々浦々まで大流行した。世界の流れと逆行するように。

 トルシエサッカーに否定的だったジーコは当初、4-2-2-2一本槍だったが、任期の後半になると、Jリーグの各チームがやり慣れているからと3-4-1-2を取り入れ、併用した。

 4-2-3-1に転じたのはオシムジャパンになってからだったが、その3の位置に座ったのは遠藤保仁であり、中村俊輔だった。中盤選手をウイングのポジションに据え、急場を凌ごうとしたが、それにはいささか無理があった。とりわけ中村は右のサイドに居たたまれず、ポジションを真ん中に移動。ゲームメーカー然とプレーをした。

 4-2-3-1という布陣の特徴と選手の個性がかろうじて一致したのは、第2期岡田ジャパン時代の最終盤。2010年南アフリカW杯本番になってからだった。

 まさに生みの苦しさをハッキリとこの目で見てきた筆者にとって、"なんちゃって超攻撃的3バック"を採用する森保監督、ならびにそこに問題意識を抱けぬ協会や一部のメディアが軽薄に見えて仕方がない。それがもたらす負の影響について真剣に考えているとは到底思えないのだ。

 日本という島国において代表チームの影響力は他国よりも大きい。3-4-2-1が日本中に充満すれば、ウイングが日本のストロングポイントでなくなる可能性、SBらしいSBが消滅する可能性がある。

 世界的に森保系3バックが占める割合は3割に届くかどうかだろう。多数を占めるのはより攻撃的なオーソドックスな4バックである。少数派にあえて属そうとするのなら、その理由を日本全国のサッカーファンに向け、詳らかにしなければならない。

 だが、森保監督はこの件について、「臨機応変」「賢くしたたかに」といった曖昧な言葉で誤魔化そうとしている。

 ものすごく重大なことをこっそりと勝手に変えるな、と叫びたくなる。それを超攻撃的3バックと称し、はしゃぐメディアも同じくらい罪深い。繰り返すが、現状をこのまま放置すれば、SBやウイングは日本サッカー界から消滅する可能性があるのだ。

著者プロフィール

  • 杉山茂樹

    杉山茂樹 (すぎやましげき)

    スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。

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