日本女子サッカーは世界的ブームに乗り遅れた 追いつくカギは男女平等の環境づくり (2ページ目)
【変わるきっかけは「グローバル化」と「外圧」】
そこで気になるのが日本の状況だ。上野千鶴子氏(ジェンダー研究の第一人者・社会学者)をはじめ多くの学者や識者らが以前から指摘する「日本の女子の自己肯定感の低さ問題」が重たい。
この問題はWEリーグが開催するWE ACTION MEETINGでも取り上げられている。日本の女子選手はオーストラリアやスペインとは全く逆の発想に陥りがちで、「男子の施設を使わせてもらっています」と言葉を発することもある。
ただ、2つの国の女子サッカー事情を知ると、これを「日本の女子特有の問題」と片づけてしまうのはあまりに酷だ。WEリーグの髙田春奈チェアはヨコハマ・フットボール映画祭2023のトークステージで問題提起した。
「なぜJリーグのチームは『トップチーム』と呼ばれ、同じクラブ内のWEリーグのチームは『女子チーム』と呼ばれるのだろう」
スペインの「『2つのトップチームを持つ』意識」、オーストラリアの「Aリーグ・ウィメンとAリーグ・メン」とはあまりに違う。プロであっても「アカデミー(育成組織)と同じ一群に見られてしまう」というWEリーグでプレーするプロ選手からの声もあるそうだ。
勝てなければ2011年の世界一と比較され、試合のレベルが男子よりも低いと揶揄される。声を挙げれば「勝ってから言え」と反発を受ける。批判と隣り合わせで閉塞感から抜け出すことができなかった。
プロ選手であることに、絶対的な自信を持ちにくい環境だったのだ。それでは選手の魅力やストーリーはファンに伝わらない。根深い「日本の女子の自己肯定感が低すぎる問題」を解決しなければ、日本の女子サッカーに明るい未来は拓けない。
WEリーグ開幕以前に行なった「2014プレナスなでしこリーグスタジアム調査」によると、観戦者の男女比は男性約70%、女性約30%。年齢は40歳以上が約75%を占めており、Jリーグよりも若年層の来場が少ないことが特徴となっていた。
そのため、プロ化から2年を費やし各チームが新規来場者の開拓に努力。女性やファミリーが思う存分に一日を過ごせる工夫を凝らしてきた。ちふれASエルフェン埼玉の昨シーズンのホーム最終戦の来場者の約6割が親子観戦となったように、多くのスタジアムでファミリー層や女性が増加傾向にある。
選手が自信に満ちたプレーを続け、発言し、プロサッカー選手としての輝きを増せば増すほど、その姿を見に行きたいファン・サポーターは増えるに違いない。それは、選手の自己肯定につながっていく。
前後編を通してスペインとオーストラリアの女子サッカー事情を紹介したが、共通項があったことにお気づきだろうか。いずれも自力だけで発展したわけではない。そこには「グローバル化」と「外圧」があった。スペインはEU加盟が、オーストラリアは女子ワールドカップが大きく影響したのだ。
日本の女子サッカーは「グローバル化」と「外圧」で変わる絶好の機会を逸したのではないだろうか。多くの人は忘れているが、日本は今回の女子ワールドカップの招致を目指していた。最終の票読み段階で辞退したのだ。
日本はできるだけ早いタイミングで、再びFIFA女子ワールドカップの招致に挑戦すべきではないだろうか。これも忘れられがちだが、東京五輪の女子サッカーの前売り券は国立競技場も横浜国際競技場も完売していた。
招致に成功すれば、多くの観客が生き生きとして希望に満ち溢れた世界の女子サッカー選手たちを目の当たりにする。その時日本が、女子のフットボールカルチャーでも世界に追いつく新たなスタートを切れるはずだ。
著者プロフィール
石井和裕 (いしい・かずひろ)
1967年、東京都生まれ。WE Love 女子サッカーマガジン主筆。2006~2007年モックなでしこリーグ冠スポンサー等スポンサー担当者。FIFA女子W杯は2007、2011、2019、2023年を現地観戦。著書『横浜F・マリノスあるある』『サポーター席からスポンサー席から: 女子サッカー 僕の反省と情熱』『日本のサポーター史』等。なでしこリーグ公式サイト『日本全国なでしこリーグの街を訪ねて』『なでしこリーグのSDGs もう一つのゴール』連載。PRSJ認定㏚プランナー。
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