日本代表の後方に人が余っていたクロアチア戦。森保監督はカタールW杯でどんなサッカーがしたかったのか (3ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • photo by JMPA

非効率で臆病なサッカー

 森保監督はどんなサッカーがしたかったのか。

 これまで「臨機応変」「柔軟に」「連係連動」など、抽象的な言葉を吐きながら、本音をひたすら隠してきたのか。いま振り返ればそうなる。やりたかったのは、後ろで守るサッカーだったのだ。サンフレッチェ広島時代を彷彿とさせる5バックサッカーを、森保監督は最後の最後に日本代表のスタンダードにした。それは非横浜F・マリノス的サッカーであり、非川崎フロンターレ的サッカーだ。

 後方に余剰人員が2人もダブつく非効率かつ臆病なサッカーを土壇場で当たり前のように見せられると、この4年半の日本代表観戦取材が徒労に終わったような、空しい気分に襲われる。こんな筋の通らない采配は許されるべきではない。もし森保監督の続投となれば、それはサッカー協会そのものの論理が破綻することを意味する。哲学なき協会に成り下がる。

 森保監督は、さらに選手交代も5人しか行なわなかった。延長戦に入れば6人目が可能であったにもかかわらず、使えなかった。打つ手なし。万策尽きたという感じだった。これは選手に対しても失礼な振る舞いである。PK戦を制しても、次戦に向けてあまり喜べない勝利となっていただろう。

 なぜ1トップに大迫を選ばなかったのか。スピード系の前田、浅野拓磨を軸に戦ったのか。後ろで守るカウンター系の5バックサッカーがしたかったのだとすれば、なるほどと納得できる。だとすれば正直に、そう話すべきだった。ひたすら本音を隠しておいて、カタールW杯本番になって、自分の好きなサッカーをした。

 W杯本番になって、スタイルを激変させた監督として知られるのは2010年南アフリカW杯を戦った岡田武史監督になるが、それはいい意味で、だった。歓迎すべき変更だった。

 後方に人員がダブつく守備的サッカーを、まさかカタールW杯本番で見させられるとは思わなかった。日本代表の新監督には、森保監督と180度異なるコンセプトを明確に掲げる人物に就いてほしいものである。このクロアチア戦を、日本サッカーのアンチテーゼにできるか。

 次回は、正面から正々堂々と、オーソドックスな攻撃的スタイルで、日本の技術を全面に押し出すサッカーをしてほしいものである。日本が世界に披露すべき魅力はそこなのだ。退屈なサッカーを120分間、世界のファンの前で演じてしまった罪は重い。

【著者プロフィール】杉山茂樹(すぎやま・しげき)
スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。

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「長く第一線でやれたのには理由があります。その要因を紐解くことは、サッカーだけではなく、おそらくサッカー以外の社会や組織にも当てはまること。その『ヒント』になるようなものが、この本には詰められていると思います」

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【profile】
中村憲剛(なかむら・けんご)
1980年10月31日生まれ、東京都小平市出身。久留米高校から中央大学に進学し、2003年にテスト生として参加していた川崎フロンターレに加入。2020年に現役を引退するまで移籍することなく18年間チームひと筋でプレーし、川崎に3度のJ1優勝(2017年、2018年、2020年)をもたらすなど黄金時代を築く。2016年にはJリーグMVPを受賞。日本代表・通算68試合6得点。ポジション=MF。身長175cm、体重65kg。

佐藤寿人(さとう・ひさと)
1982年3月12日生まれ、埼玉県春日部市出身。兄・勇人とそろってジェフユナイテッド市原(現・千葉)ジュニアユースに入団し、ユースを経て2000年にトップ昇格。その後、セレッソ大阪→ベガルタ仙台でプレーし、2005年から12年間サンフレッチェ広島に在籍。2012年にはJリーグMVPに輝く。2017年に名古屋グランパス、2019年に古巣のジェフ千葉に移籍し、2020年に現役を引退。Jリーグ通算220得点は歴代1位。日本代表・通算31試合4得点。ポジション=FW。身長170cm、体重71kg。

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