トルシエはフランスW杯で知った日本サッカーについて何を思ったか。「最大の弱点はプレーが直線的で予測しやすいことだった」 (3ページ目)
同時に、いくつかの欠点も目についた。
「最大の弱点は、プレーが直線的で予測しやすいことだった。深みがなく、容易に先を読むことができる。マリーシアが足りず、相手の裏をかけないからだ。
先を読んで何かをするわけではない。フィジカルとスピードを頼りに、相手よりも速く、長い時間走ることばかりを心がけている。スマートなボール回しができない、ナイーブで直截(ちょくせつ)的なサッカーだった。それが、攻撃面での日本の印象だ」
一方で、守備に関してはどうだったのか。
「チームは連帯感にあふれ、アグレッシブだった。だが同時に、守備でもマリーシアと経験の欠如を感じた。日本はさまざま面においてナイーブで、言葉を換えれば、それはヨーロッパにおける経験の欠如だ。
だから、選手がナイーブに映る。日本に来て顕著に感じたのは、そのことであり、その方面で集中的に強化をした。選手たちがより抜け目なくなることを求めた」
実際にトルシエは、のちに選手たちにコンタクトプレーで手や腕をうまく活用することや、激しいボディコンタクトを求め、練習では自ら選手を相手に実践して見せた。その激しさと厳しさ、顔を真っ赤に染めて選手を怒鳴り、檄を飛ばす姿から、たちまち「赤鬼」というニックネームが与えられた。
しかしながら、トルシエサッカーの本質がそこにあるわけではない。独自の理論に基づく組織的なスタイルは、フラットで高いラインの3バック――いわゆるフラット3と、(敵の)選手ではなく、ボールの位置に合わせてブロック全体が動き、オフサイドトラップを仕掛けて相手をコントロールする守備、そして選手が連動してオートマティックにボールを回し、相手ブロックに穴をあける流動性にあふれた攻撃を特徴とする。
「個の力ではヨーロッパや南米に劣る日本人も、組織の力で自分たちよりも力が上のチームと互角に戦えるシステム」であり、その実現のために選手が組織と規律を順守するのは、トルシエにとって絶対であった。
「私のシステムを実践するには、規律が必要で、チームの統一感も必要だった。私が日本で仕事をする意義があったのは、日本人には規律があり、人の言葉に耳を傾けられたからだ。選手は私の言葉を真剣に聞き、スタッフや協会の人々も規律にあふれていた。日本で強固なグループを作り上げるのは、私には難しくなかった」
チームは完璧なマシンになって初めて、効果的に機能する。プロセスの途中――60%や70%の段階で、完成度に見合った成果をあげられるわけではない。0か100か。それが、トルシエにとってのチームであった。
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