アンリを止めた坪井慶介の日本代表ベストゲーム。「でも、ず~っと引っかかっていた」ことがある (4ページ目)

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki
  • photo by AFLO

 しかし、試合の流れとは裏腹に、したたかなフランスに決勝点を奪われ、終わってみれば1-2の敗戦。あと一歩で大金星を逃した。

「内容的には日本もよかったと思うんですけど、ああいう点をとるか、とられるかという勝負のところで結果を出してくるチームが上に上がっていくんだな、っていうことを痛感しましたね」

 そんな悔しい試合のなかに、坪井が強く印象に残しているシーンがある。

 フランスが1点を勝ち越して迎えた後半80分、フランス代表のエースストライカー、ティエリ・アンリが途中出場してきた時のことだ。

 坪井はワクワクを抑えきれず、「代表の試合でこんなことを考えちゃいけないのかもしれないですけど、ちょっとスピード勝負がしたいな、って(苦笑)。どこかでそういうシーンがないかな、っていうのは思っていました」。

 すると、試合終了まで残り時間わずかとなったところで、まさに願ったり叶ったりの場面がやってきた。

 足元にボールを収めた次の瞬間、得意のドリブルで縦に仕掛けてきたアンリ。待ってましたとばかりに並走する坪井。すると、まだ日本代表3試合目だったセンターバックは、世界的スピードスターに後れることがなかったばかりか、タイミングよく体を入れ、きれいにボールを奪いとってしまうのである。

 念願のスピード勝負は、坪井の完勝。誇らしい勲章となるはずだった。

 ところが、だ。坪井は、その瞬間の違和感を明かす。

「実際に対峙して、一緒に走って『あ、本気じゃないな』って感じたんです。だから、僕も『手を抜いたら勝てねぇぞ』と、むきになって走っていって、体を入れたのを覚えています。

 その試合が終わってからも、いろんなところで周りの人から『おまえ、アンリに走り勝ったじゃん』みたいなことをよく言われて、僕も『まあ、そうだけど......』とは答えていたんですが、正直、自分のなかでは『でも、アンリは本気じゃなかったんだよな』っていうのは、ず~っと引っかかっていました」

 結局、日本は続く第3戦でもコロンビアに0-1で敗れ、グループリーグ敗退。ジーコ監督率いる日本代表の世界デビュー、そして、坪井の世界デビューはほろ苦いものに終わった。

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