大野忍は、なぜ通算200ゴールまであと18なのに引退を決意したのか? (5ページ目)

  • 早草紀子●取材・文・写真 text&photo by Hayakusa Noriko

 日本女子サッカーを牽引する立場になってから、大野が常に心にとめていたことがある。

「澤さんがやっていたことをやりたかったんですよ。それこそ若い選手たちのサポートとか。どういう風にしたら若い子が活きるのか、ムードメーカーになったりとかも含めて。自分が先輩たちを見てきて学んできていることだから。それをちゃんと若い選手に伝えたかった」

 選手同士だから伝わることもあれば、指導者としての方が伝えやすいこともある。現役中に散りばめられていた点が、今ようやく線となって大野を指導者へと導いている。

「引退の決断に時間はかかりましたが、自分自身でしっかり決めたことです。寂しさっていうか、そういうものもすべて笑顔に変えて、楽しく生きていこうと思います!」と、大野は最後まで笑顔を貫いた。

 苦しんでいる大野の姿も数え切れないほど見てきた。それでも、気合いを入れて声を張り上げ、チームメイトを笑わせる。強がりながらも、心の底からサッカーを楽しむことを忘れない大野をプレーヤーとして見ることはもう叶わない。喜びを爆発させる大野、苛立ちを隠すことができない大野、いたずらを仕掛ける大野、それが成功して爆笑する大野......。どこに立っていても、実に人間味あふれるフットボーラーだった。

 今年1月にはすでにB級ライセンスを取得し、指導者への道を歩き出している。次にピッチで会うときは、前代未聞のやんちゃな監督として、選手たちへ声を張り上げているのだろう。それもまた、"しの"らしい。

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