日本が初出場したW杯。帰国した城彰二を襲った「あの事件」に迫る (4ページ目)

  • 佐藤 俊●取材・文 text by Sato Shun
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 プレッシャーは日に日に増していったが、初戦のアルゼンチン戦を迎えたときには「試合を楽しみたい」という前向きな気持ちが少しだけ出てきた。

 この2年前、アトランタで五輪の舞台は経験したが、なにせW杯は日本が初めて挑む世界最高峰の舞台である。どんな大会なのか、相手はどんなレベルなのか、テレビの画面を通して見たことはあっても、未知の世界である。サッカー選手として、それを実際に体感できることの喜びは大きかった。

「試合は楽しみだったね。だって、(日本人が)誰も経験したことがない大会の試合だもん。もちろん、簡単にはいかないだろうって思っていた。アトランタ五輪のブラジル戦でものすごい力の差を感じたけど、初戦のアルゼンチン戦は、そのときと同じようにボロクソにやられることも予想していた。けど、実際にやられたのは、バティ(FWガブリエル・バティストゥータ)の1発だけ。(日本も)パスが中盤でつながって、攻め込める時間があった。

 ただそれは、相手が省エネ(サッカー)でボールを持たせてくれていたからだった。それに気づかず、調子に乗って『これは次、勝てるかもしれない』『(クロアチア相手なら)やれるんじゃないか』っていう勘違いをしてしまった」

 テレビを見ていた日本のファンも、城と同じような感想を思った人が多かったのではないだろうか。

 ブラジルと並ぶ南米の強豪に、敗れたとはいえ僅差の試合をしたのだ。次の対戦相手となるクロアチアは、アルゼンチンよりも個の質では劣る。アルゼンチン相手にそこそこ戦えたのだから、次は勝てるのではないか。アルゼンチン戦での善戦で、そんな甘い妄想が選手、メディア、ファンの中でどんどん熟成されていった。

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