偉大なるなでしこ・小林弥生がベレーザに残した「誇り」 (3ページ目)

  • 早草紀子●取材・文・写真 text&photo by Hayakusa Noriko

 チームとして、とても好調だとはいえなかったレギュラーシリーズ。リーグ中盤では3連敗()を喫した。途中出場ながら必死にボールを追った小林。試合後、寺谷真弓監督からゲキがとんだ。
※4月の4節から6月の6節まで

「弥生の姿を見たか? あれが戦う姿勢だ!」

 このときは、まだ想いが伝わり切っていなかった。

 その後、代表選手がアジアカップ(5月14日~25日)を戦うためにチームを離れている期間中も、小林は若い選手たちと走り込みをし、練習でも自分の背中と言葉で伝え続けた。

「弥生さんが声をかけてくれたから成長できた。自分がキツイときとか弥生さんの声に励まされました」とはMF長谷川唯(17歳)。若い世代にもしっかりと伝わっている。

 決勝戦では、小林の引退に対する動揺も、焦りもなく、ただ彼女への想いだけが選手たちを突き動かした。ラスト15分。躍起になってゴールを狙うベレーザの選手たち。この時の彼女たちの敵はもはや浦和ではなかった。1-0という最小リードのままでは、小林の出番の可能性は少ない。あと1点――。小林をなんとしても、ピッチに立たせるためにボールに想いを込めていた。その願いは叶わなかったが、優勝が決まった瞬間、小林の目から涙があふれ出た。

「もう泣いてもいいや、泣こうって(笑)」(小林)

 ピッチに立っていなくても、ここまで満たされるラストゲームがあることを初めて知った。

「私は8回も選手権(皇后杯)で優勝させてもらったけど、タイトルを知らない子たちがほとんどだから、結果が欲しかった。辛かったし、苦しかった。でも最後にこの景色を残してくれてたんだって思ったら、苦しいこともがんばってよかったって思える。みんなの想いが伝わってくるプレイだったし、ピッチに私もいそうな感じだったでしょ?(笑)やり抜いて、やり尽くして、残し尽くした。だからね、あとはみんなに任せたよ!って。優勝で終われるなんて幸せだと思ってます」

 この日、18年間袖を通してきた緑のユニフォームを脱いだ。引退という自身にとっても特別な年でさえ、彼女のサッカー人生18年のすべてとともに愛すべきベレーザというチームの成長に注いだ。これが彼女の考え抜いた去り方、いや、残し方というべきか。小林弥生の誇りを見た気がした。

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