豊田陽平は代表「落選」という事実をどう受け止めたのか (3ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by AFLO

「でも、嫁に『W杯に連れて行けなくてすまん』と謝った途端、涙があふれ出してきそうで」

 豊田は静かに告白している。

「関係者には謝ることができたけど、家族の夢を叶えてあげられなかったことを謝りたいんです。でも、それができていない。男として格好悪い姿を見せたくないというか。一度、嫁の名前を呼んで謝ろうと思ったんですが、瞬間的に話をすり替えました。

 GWの連戦はさすがにきつくて、体は重かったんです。でも、“家族のために走ろう、その運命を背負っているんだ”と自分に言い聞かせると、また一歩を踏み出せました。家族を思い出すことでプレイできていたんです。だから、どうしてもW杯に連れて行きたかった。

 率直に言って、翌日に発表されたW杯予備登録メンバーの30人に入ったのは嬉しかったです。自分の戦いが少しは認められ、鳥栖のサポーターの人にも“あと少しだったんだ”と証明できましたから。でも、ブラジルには行けないという突きつけられた事実は変わっていません。それはもう叶えられない夢。だからそれに代わるなにかを、サッカー選手のうちに成し遂げたいですね。

 今は、“次のW杯を狙う”とか、壮大な目標は霞んでしまって見えません。やっぱり、鳥栖でこうしたチャンスをつかめたわけだし、このクラブで、リーグタイトル、得点王を取りたい。そうすることで、2014年も良い年だったと思えるはず。逆襲を狙うためにも、悔しさは忘れず持ち続けていきますよ。そしたら、例えば海外移籍や次のW杯だって見えてくるかもしれません。自分の人生に近道はない。遠回りでもこつこつやるだけです」

 豊田には誇りをかけてプレイした、という自信がある。結果に一喜一憂しない。その証拠に、W杯コートジボワール戦のテレビ解説の依頼も引き受けた。彼は逞しく、前向きに生きている。

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