W杯メンバー発表直前、豊田陽平が語っていた「平常心」
短期集中連載・世界に挑む男たち~豊田陽平(3)
2014年5月7日夜、鳥栖市。駅前にある海鮮居酒屋は騒々しかった。店員が負けずに声を張り上げ、料理をテーブルに運んでくる。
「こちら、佐賀県唐津の名物の"呼子のイカ"でございます! 刺身の後は天ぷらにしますので」
豊田は悪戯っぽい顔を浮かべ、皿に置かれていたレモンを手に取ると、活き造りのイカに向かって絞った。頭部を引き裂かれたイカが、手足を動かして身悶える。傷口に染みるのか。
代表メンバー発表直前、横浜F・マリノス戦に出場した豊田陽平(サガン鳥栖) その前日、本拠地ベストアメニティスタジアムで行なわれた第12節の柏レイソル戦、豊田は相手選手と接触して血を流し、包帯を巻いたままプレイしていた。隆起している絆創膏が痛々しかった。左眉の切り傷を隠そうと、眼鏡をかけていた。
「最初は汗かな? と思って拭ったら、血がダラっと出てきて。『弱なっているなー、まぶた』と思いましたね」
豊田は傷口に手をやり、訥々(とつとつ)と解説する。
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