平均視聴率48.1%!ドーハの悲劇、テレビ東京の舞台裏

  • 布施鋼治●文 text by Fuse Koji photo by AFLO

「いったいどうなっているんだ?」

 日本とカタールのスタッフが国際電話でやりとりし始めたころ、久保田のかたわらで解説を務めていた前田秀樹(元日本代表ミッドフィルダー)がボソッとつぶやいた。

「今のはですよ、一瞬のスキでしたね」

 その15秒後、久保田と前田はまるでタイミングを計ったかのように、同じ言葉を口にした。

「いやぁ」

 そのまま久保田は、言葉を続けた。

「前田さん、しょうがないですけどね」

 帰国後、久保田はこの試合映像を一度も見返していない。自宅にVHSビデオは残っているが、一度も再生したことはないという。「見る気にならない。だから、どういうふうに放送が進んでいるのか僕は知らない」。

 その空白の瞬間を抜粋する形で、初めて久保田が目にしたのは、昨年、テレビ東京で放送中の『FOOT×BRAIN』のアナウンサー特集にゲストとして招かれた時だった。「正直、言われているほどではないと思いました。もっと声に悲壮感やガッカリ感が出ていると思ったけど、全然そんなことはなかった」。

 それでも、しょうがないですけどね、と口にしたことには、自ら疑問を投げかける。

「あまりにも早く気持ちが切り替わるのはおかしいかなと。ちょっと深い話になるけど、ああいう時にこそ、人間性とか性格が出るんじゃないですかね。そういったものが出てくるから、テレビは怖いと思いました。もうちょっとほかに何か別の言い方はなかったのか。自分としてはなんかイヤでしたね」

 数ヵ月後、久保田はある会合で同業者から、「ああいう状況になったら、僕もおそらく同じように黙ったよ」と同情された。相手は年上だったため、久保田はそうですかと相槌を打つだけにとどめたが、内心は違っていた。「計算とか、そういうんじゃないんだよ」。

 後日、あの時の自分を改めて冷静に分析してみると、何もない素の状態に陥っていたことが分かった。

「要はね、シラけてしまったんですよ。『泣いていたんじゃないか』『感極まってしまったのでは』と言ってくれる人もいたけど、それは正反対。むしろ、ふざけるなという感情の方が強かったんですよ」

 現在はサッカーやテニスを中心にフリーアナウンサーとして活躍する久保田にとって、日本対イラクは個人的に記憶に残る一戦ではない。それでも、印象に残る一戦であることは確かだ。

「変な話かもしれないけど、僕の実況人生のひとつのターニングポイントですね。評価云々ではなく、歴史的な瞬間をしゃべったという意味でね」

 あれから20年――。「ドーハの悲劇」が生み出した48.1パーセント(瞬間最高視聴率は58.4パーセント!)という視聴率は、テレビ東京でいまだ破られていない。

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